第二部 気高き黄金
異世界転生 5日目
第86話 あたま、こてん
激闘の舞台となった城塞都市ディリンデンからの帰り道。
俺、ウヅキ、グンマさんの3人は、ナイアが用意してくれた馬車の中でコトコトと揺られていた。
既に日付が変わっていて、俺も含めた全員が完全なお疲れモードだった。
「馬車ってもっとガタゴトするもんだと思ってたけど、意外と快適なんだな……」
かなり高性能なサスペンションがついているのだろう、用意された馬車の乗り心地は抜群だった。
貴人用の高級馬車――、というか「アレ」である。
辺境伯が使っていた、例のきんきらきんに輝く
「これがちょうど空いてたからさ」
とは、ナイアの言葉をそっくりそのまま簡潔に伝えてくれた御者の言である。
「暗いから、パッと見ただけではそうと分からないのが唯一の救いだな……」
痛車にも金メッキ仕様のプラモにも広く理解ある俺だが、さすがにこれはない。
「なんていうかさ、スタイリッシュさが感じられないんだよな。こういうのは、ただ金ぴかに光らせたらいいってもんじゃないんだ。相手の心に響かせるための手段としての金ぴかなんだよ。自己顕示欲を満たすためじゃだめなんだよ。そこをはき違えてもらっては困る!(キリッ」
「て、哲学的なお話ですね……?」
「おっと失敬。ついつい自分語りをしてしまったよ」
「難しい内容はよく分かりませんが、でも信念を語るセーヤさんは素敵です! さすがです、セーヤさん!」
ウザい自分語りを聞かされても、それでもいいところを探して褒めてくれる優しいウヅキだった。
ただまぁさっきも言ったように、辺境伯仕様というだけあって舗装されていない街道にもかかわらず、馬車は柔らかい振動しか伝えてこなかった。
カタンコトンと優しくゆりかごのように揺さぶられているうちに、俺もとってもいい感じで眠くなってきたぞ……。
「くー……すー……」
そしてまず初めにウヅキが眠りに落ちた。
「絶体絶命だった俺を助けるために、しゃもじとおたまで《
ウヅキは俺の腕を、そのたわわなおっぱいに挟み込むようにギュッと掻き抱きつつ、無防備な寝顔を晒して寝入っていて、これまたとっても可愛らしかった。
そしてすっごく柔らかい。
肘なんてもう完全に埋まっちゃっているぞ……!
「くー……すー……」
ウヅキはすっかりと可愛らしい寝息を立てていたのだが、
「くっ、このシチュエーションはまさか……!」
そう、俺はウヅキに寄りかかられて、あたまをこてんと肩に乗っけられていたのだった!
「恋人ができたら絶対に経験したいランキング上位常連の、彼女の頭が肩にこてん、が今、俺の元に……!」
突如、遭遇した夢のシチュエーションを前に、俺の眠気は完全にすっ飛んでしまっていた。
腕を包んでいる、おっぱいのやわらかさ。
さわさわと首元をくすぐってくる、髪のこそばゆさ。
ウヅキから伝わってくる、甘いにおいと、人肌の温かさ。
心を許した相手に見せるあどけない寝顔。
「これが、これが彼女の頭が、肩にこてん……!」
心が身体が、ウヅキという優しさで包み込まれるような多幸感は――、
「控えめに言って、最高だぜ――っ!」
そんなウヅキは幸せそうに寝息を立てながら、
「むにゃむにゃ、さすがです、セーヤさん……」
夢の中でまで俺を褒めたたえていてくれた。
「寝ていてもなお俺を称賛してやまないとは、全くどうしようもなく可愛いやつめ……」
夢の中だけに夢中、なんてな。
本当にもう、可愛すぎるぞ、もう!
「むにゃ、セーヤさんの《
「うんうん、そうだろう、そうだろう」
あの時の俺は、ただ未来だけを見据える黄金の情動に突き動かされていて、負けるなんてことは微塵も考えはしなかった。
そして実際に《
「はぅ……セーヤさんの《
「ん? ……んん? あ、ありがとう……?」
「くー、すー……セーヤさんの《
「ちょ、ウヅキ? 一体なんの夢を見ているのっ!?」
気づくとラブコメ系A級チート『あたま、こてん』が発動していた。
心を許した相手の願望、心の内に秘めたる気持ちを、気持ちよく夢として見せてあげるチート――、だそうだ。
「これがウヅキの本当の心、なのか……? いつもそんなえっちぃ素振りは見せないのに? ……つまりウヅキは、ムッツリスケベ……?」
衝撃の事実発覚だった。
「……いやいや、女の子をそんな風に言うのは良くないな。ウヅキだって時にはムッツリしたい時だってあるだろうし。たまたまだよ、たまたま。うん。せっかくいい夢を見てるんだから、ここは聞かなかった振りをしてあげるのが、モテ男への第一歩というものだ」
ちなみにグンマさんは狸寝入りをしていた。
熟練の大人の対応であった。
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