第87話 家に帰るまでがドラスレです
馬車に揺られてのアウド村までの道中は、特に何があるわけでもなく。
挟まれる……、じゃない揺られること約1時間。
「す、すみません。安心しちゃって、ついぐっすり寝ちゃいました……」
「はは、いいよいいよ、俺も役得だったし」
それはもう、眠気が吹っ飛ぶくらいに心行くまで柔らかさを堪能させてもらったからね。
「は、はぅ……」
俺の腕を思いっきり抱きしめながら寝ていたことに思い至ったのか、ウヅキの顔が真っ赤に染まった。
「それに、なんだかとんでもない夢を見てた気がします……」
とか言いつつ俺の股間あたりにさりげなくチラッと視線をやったウヅキ。
もちろんそれについては知らない呈で黙っておいた。
女の子の秘密を詮索しない、これぞモテる男への第一歩なのである。
とかなんとかやりとりしつつ、村の入り口で停車した馬車から俺たちは順番に降り立った。
トラヴィス商会から派遣されたという腕のいい御者――なぜかメイドさんの格好をしていた――に感謝の意を告げると、
「むしろ感謝するのはこちらの方です! 《
とか言われてしまった。
とか言われてしまったわ……!
「ふっ、ふふ、くふふふ……」
ヤバい……。
《
半端なくテンションあがるんですけど!
おっと、そうだ、サインとか考えてた方がいいかな?
うん、考えた方がいいよな?
だってサインを求められたときに、無いと困るもんな?
あ、でもサインってどうやってデザインしてるんだろ?
デザイナーにでも頼むのか?
それともみんな自分で考えてるんだろうか……?
……とまぁこんな感じで。
平穏無事にアウド村へと帰ってきた俺達3人は、村の中を行き行きサクライ家までたどり着いた。
そんな俺達を出迎えたのは、
「うにゅ、おかえり、なさい」
一人残っていたハヅキだった。
ハヅキはとてとてと玄関までやってくると、グンマさんも一緒なのを見てぱぁっと顔をほころばせた。
でもあれ?
「ハヅキ、起きてたのか?」
グンマさんが連れて行かれたことを俺たちに伝え、そのまま泣き疲れて眠ってしまったハヅキを部屋まで運んだのは、他でもない俺である。
「ううん、ねてた」
「だよな。あ、ちょっとうるさかったか? 起こさないようになるべく静かにしたつもりだったんだけど、ごめんな?」
人間の眠りは、深い眠りと浅い眠りを交互に繰り返す。
玄関を開ける時も大きな音を立てないようにと注意はしてたんだけど、浅い眠りの時間帯だとちょっとした物音でも起きちゃう時があるんだよな……。
でもハヅキはというと、
「うるさく、ない……なんとなく、かえって、くるかも、って?」
なんてことを言ってきた。
「ふむ、いわゆる第六感ってやつか。いいね、実に運命的じゃないか」
運命とか巡り合わせとか、そういう厨二ワードが大好きな俺が素直に喜んでいると、
「ごめんなさい、うそ、でした。おしっこに、おきた」
ハヅキが心底申し訳なさそうに呟いた。
「そ、そうか……」
いたずらが見つかった子供みたいに、目に見えてしょぼーんとするハヅキ。
「ま、まぁでも、ほら? それでも狙いすましたようにこのタイミングでおしっこに起きたってのはさ、やっぱ運命的だよ。デスティニーおしっこだ。えらいぞ、ハヅキ」
言って、頭を優しくなでなでしてあげると、
「ぁ……ぅ……」
ハヅキが嬉しそうに目を細めた。
そのままぎゅっと、俺のお腹に顔をうずめるようにして抱き着いてくる。
このやりとりもなんか久しぶりで、すごくホッとできるなぁ……。
「ほんと、やっと全部終わったんだな……」
何気ないいつもの日常をいつものように行ったことで、改めてそのことを実感した俺だった。
そうだよ、いきなり
「お疲れ様でした、セーヤさん」
「ああ、さすがに疲れたかな……。でもさ――」
ここから、改めてもう一度。
史上最高究極至高の、パーフェクトで、グゥレイトな、俺のモテモテハーレム異世界転生が始まるんだ――!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます