第9話 まったく、異世界転生は最高だぜ!!

「そう言えば自己紹介がまだでしたね。わたしはウヅキ。サクライ・ウヅキと申します。ぜひぜひ、ウヅキと呼んでくださいね」

 自己紹介とともに、にっこりと微笑んだ可憐な少女。


「俺は麻奈志漏まなしろ誠也だ。よろしく」

「マナシロ・セーヤさんですね、助けていただいて本当にありがとうございました。あの、セーヤさんとお呼びしても?」

「も、もちろんウェルカムだ、まったくもって全然オッケーだぞ!」


 ……やった、やったぞ。

 いきなり女の子から名前呼びされちゃったぞ!

 ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』、マジ半端ないって!


「セーヤさん」

「ん? なに?」


「えへへ、呼んでみただけです」

「お、おう……おう!」

 なにこれなにこれ、甘酸っぱくて、めっちゃこそばゆいんですけど!


「えへへ、セーヤさん」

「な、なにかな、サクライさん」


 顏が、顏がにやける……堪えろ、堪えるんだ麻奈志漏まなしろ誠也……!

 妖魔を相手に無双した流れから、ここは強くて頼れる男らしさを見せる場面だ……クールに格好良く振るまうんだ!


「もう、ウヅキでいいって言ったじゃないですか」

「え、いや、その……それは……ちょっと恥ずかしいというかごにょごにょ……」


「ウヅキですよ、ウ・ヅ・キ」

「あ、う……その、えっと……」

 ……悲しいほどにクールに格好良くとは程遠く、まごまごおどおどしてしまっていると、そっと優しく包み込むように手を握られた。


「ウヅキ、ですよ、セーヤさん」

 俺の手とは全然違う、温かくて柔らかいおててに包まれて、それだけで気持ちいいでござるフヒヒ……じゃなくてだな!


「あの、もしかしてセーヤさんはわたしのこと、名前で呼ぶのはお嫌なのでしょうか……」

「いやその……そんなことは、ぜんぜん、ちっとも、ないんだけど……」


 くっ、こちとら女の子を名前で呼ぶなんて幼稚園の年長組以来なんだ……!

 しかもその相手ってのが、めっちゃ可愛くて、奥ゆかしくて、俺的好みド真中ストライクの黒髪美少女ときたもんだ。


 自分の名前を呼んでもらえただけで舞い上がるくらいなのに、俺も女の子を名前で呼ぶとか、いきなり難易度が高すぎるだろ常識的に考えて……っ!

 そもそもなぜ『女の子を名前で呼ぶ』チートが無いんだ?

 異世界転生局のご担当者様、早目の実装をお願いしますね!


「セーヤさん?」

 はにかみながら上目づかいで見つめられて、そのあまりの可憐さに俺はついに観念した。


「あ、う、えっと、う、う、う、ウヅキ……」

 ボソボソとなんとか声を絞り出す。

 誰がどの角度から見ても、ダサダサであった。


 それはもう、擁護のしようがないくらいに、女の子とろくに話した経験がない童貞丸出しで。


 アリッサも美少女だったけど、アリッサの性格がちょっときつめだったのと、あの時は女の子と話すことよりも、最高の異世界転生することで頭がいっぱいだったからなぁ……

 そんなこと考える余裕なんてなかったし。

 でもそんな心配は、すぐに杞憂に終わった。


「うふふ、セーヤさんってば、あんなに強くて格好いいのに、意外と照れ屋さんなんですね。硬派なところも素敵です、えへへ」


 これ以上ないくらいに、好意的に解釈してくれたからだ。

 それもこれも、たいていのことはいい方にとってくれるラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』が発動しているおかげなのだった。


 ヤバい、異世界での俺の人生がイージーモードすぎて、楽しくてたまらない!

 生きるってこんなにキラキラして素敵なことだったんだなぁ。


 控えめに言って――


「まったく、異世界転生は最高だぜ!!」

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