4日目 なんとか持ちこたえてきたけれど

 次に来るのは相性の良い教官か。そればかり考えて待つ時間は実に憂鬱だ。胃に来る痛みを堪えながらも、初日のトラウマが徐々に弱まっていくことだけは分かる。自発的に勉強をする気になってきたり、ようやく仕事の原稿に手がつき始めているのだから、たぶんメンタルは回復し始めたのだろう。

 とはいえ、寮と自動車学校以外に行く場所のないド田舎の中で、そこだけを往復していく生活にやきもきしていないといえば嘘になるのだけれど。それにテレビは地上波しか映らないし。電波悪いし。喋る相手がいないし。


「喋る相手がいないって言いながら、俺に向かって喋ってるじゃん」


 ……はい。そうでした。ということで今日のカクヨム担当もみんなの後輩ライター、あげむらえちかちゃんです。別に虚空に向かって喋っていたわけでもなく、仕事と積み本にしか娯楽を見いだせていないブタ野郎のセンパイの代わりに今日もこのカクヨムを書いているわけです。

 ほんとはもうメンタルも回復しつつあるんだから自分で書けよとも思うんですけどね。でも、実車教習中に強い言葉言われただけで涙腺緩むような様子を見てたらもう仕方ないですよね。昨日も昨日でゲーム実況配信見ていただけで心痛めたくらいなんですから。

 これでも、回復はしてきたんですけどね。はぁ……


 そんなこんなで免許合宿も四日目。悩み事とかなんでもゴミ箱に捨てちゃえとか思わなくもないんですが、センパイはメンタルが弱キャラもいいところなのであたししか喋る相手がいないようです。寮が一緒の年下くんとは世間話くらいするようになったんですけど、さすがに仕事とかラノベとかアニメの話はできませんから。仕方なく、あたしはセンパイのそんな愚痴を聞いているんですけど。

 と、よくよく考えたら聞く義理無いですよね。あたしとセンパイ、ただのセンパイと後輩の関係ですから。それに金銭関係もないですし。なんで仕事だけじゃなくて愚痴とかまで聞いてるんでしょう。これはあたし一生の不覚ですよ。センパイはかわいい後輩に仕事手伝ってもらったり悩みを聞いてもらったり、その、癒やしてもらっちゃったりして嬉しいのかもしれないですけどね? あたしはその時間が苦痛で苦痛で仕方ないかもしれないわけじゃないですか。真偽は分かりませんけども。どうでしょうね。


 それはさておき。愚痴を聞いていたり現実逃避をしていたり、免許合宿も日が経ってくるとようやくセンパイの顔にも笑みが蘇ってきたんですが、明日から模擬試験がはじまるとなると話は別になります。

 はっきり言って、模試とか無理でしょう。覚えきれてないんですからこの人。今、センパイが必死に覚えようとしているのは仕事で扱うアニメだったり、ラノベの周辺知識なのですから。


 まぁ、本来なら早く試験内容暗記しなさいとか思うんですけどね。これはあたしもですけど、暗記ってマジ苦手なんですよね。時間かけてならまだしも、今日のラストコマまで講義! 明日朝一で模試、とか無理じゃないですか。いつカクヨム更新分書いたり、仕事したりすればいいって話ですよ。

 〆切まではまだ猶予もらいましたから、土日になんとか片付けさせますけども、センパイに。とはいえ、来週月曜日の仮免試験にはどうにか合格してもらわないとあたしも困るんです。早く家に帰って連ドラの録画分とか観たいので。それにゲームもやりたいし、ラノベも買いたいし、漫画も読みたいのです。


 センパイが怠け者なのは知ってます。けれど、コメントも毎回もらっているのですから、ちょっとはやる気を出して早く帰宅して、前のようにツイキャスを朝までやりたくないですか?


「いや、あれもう地獄で次の日の体調も悪くなるから」


 仕方ないですね……とかいいつつどうせ帰ったらやるんですよね。知ってますよあたしは。ふぅ。仕方ないんですから……後始末付けるのはあたしなんですからね? あ、お礼とかは十分なので早く買ったラノベをあたしに回してください。あと、甘いものが欲しいです。


 しかし、こう二日連続であたしが書いても代わり映えしないセンパイの日常なんてネタにならないんですよ。この薄っぺらいセンパイって生き物は、自宅で仕事してるかアニメ観てるかラノベ読んでるかしないとコンテンツ力ないですから。だからいつもTwitterで失恋なんて流してるんですよ。楽しいですか、あれ。

 いつも彼女さんに振られるのが目に見えているのによく付き合いますよね。「好きな人がいるから」ってすぐ振られるならまだしも、「そんな人じゃないと思ってた」とか「好きな人ができたの」ってセンパイの努力不足でもありますからね? まぁ、告白されてそんなセリフいわれても、って気持ちも分かります。分かりますけども、向上心のないやつはなんとやらです。どうせ次の恋もとかって愚かなこと考えてるんですよね、センパイは愚かでブタ野郎だから。


 わかりますよ、あたしセンパイとどれだけいっしょにいると思ってるんですか。あたしがセンパイと一緒に同人誌やってからもう二年半ですよ? 最初にやった『冴えない彼女の育てかた』の二次創作小説からもう二年半経つんですから。よく作れましたよね、あれも〆切ギリギリまで粘って入稿した直後にコメダ珈琲店でモーニング食べてそのあと寝ましたし修羅場っていう修羅場でした。

 その修羅場を通り越した仲じゃないですか。だからセンパイのことくらいよく分かりますよ。ってことで、センパイ。そんなあたしのために早く自動車学校から一番近い徒歩十分圏内のコンビニで甘いもの買ってきてください。いいですね? はい、ダッシュ!


     ※ ※ ※ ※ ※


 ……はぁ。なんで、あんな人と一緒に免許合宿なんて来ちゃったんだろ。あたしだって喋る相手いないし。そもそも、こういう健気な後輩が一緒に来るなんて思ってる辺りあのセンパイもセンパイだよね。

 ま、来ちゃうのが愚かなあたしってあたりだけどね。


 後輩ライター、あげむらえちかとして、なんとかセンパイを支えぬく。それがこの免許合宿の中であたしに課せられた使命だから。

 課せられたって誰に? 誰だろ。なんていうか自発的にっていうか。


 少なくとも、センパイの高校時代よりは余裕のあるスケジュールなのは間違いない。あのときは毎日朝テストがあったとか嘆いてたし。いや、高校はさすがに伝聞だけど。伝聞。いいね? あたしは十四歳の現役女子中学生なんだからセンパイと同じ学校に通うことは一生無いんだから。でも、フリーライターとしては一緒に頑張れる。


 さて、センパイがコンビニ行ってる間に、原稿を書いちゃいますか。

 待ってろよ、センパイ。

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