第3話 電波ジャック

 その日、封印は家族と夕食をとった後、弟が、駅前のレンタル屋さんで借りてきた『あんたパンダ』のアニメの実写版を見ていた。

砂埃たつ校庭の中、主人公がよろめきながら手を振った瞬間、空から稲妻を呼び出し、街も教室も吹き飛ばすシーンが目に入ってすぐ、リビングで寝てしまっていた。

目を開けると、誰も居ないリビングで

ちくたく、ちくたく。

時計の音だけが聞こえる。 さっぶ

時計に目をやると朝の5 時だった。

一瞬寝ぼけていて、自分がどこかのビルの屋上で目覚める夢を見ていた事を思い出した。しかし、思い出したと同時に何処かに。風船の様に手のひらをすり抜け消えてしまった。

記憶に残らない記憶は何処にいってしまうのだろう一。

と、ゆうことで、かけられていた布団をはぎ、部屋に戻り学生シャツとその上に厚手のジャンバーとマフラーを装着する。部屋のドアの前の学生カバンを取り階段をそぞろ足で降りた。真っ暗で足元が見えにくかった。

母親の部屋を開け

「行ってきます」と、言うと

一瞬何時!と驚いて居たけれど

5時だったことに、さらに何事だとゆう表情を向けていた。

「早く起きたからもう行ってくる」

母親のいってらっしゃいの声を聞き、ドアを閉めた。

玄関先に置いてあった父のポケットラジオを勝手に取りイヤホンを耳に押し込み自転車にまたがると、ラジオからは、まだ深夜3時からの番組の延長上で、パーソナリティの人がある物語を読んでいる様だった。

ある日無人島を目指してイカダを漕いでいた内、少年が誤って海に落ちてしまった。その物語は少年目線で話が進み、目を覚ますと少年は無人島についていて、周りを見渡しても一緒にイカダに乗っていた仲間が見当たらない。少年は、海の方を見てすぐにここは元々居たところでは無いことに気づいた。海の方角に、見たこともないような高さの塔が上空に向かって伸びていたのだ。 そこで話はまた来週と終わり、パーソナリティが番組最後のリクエスト曲を流した。

その頃

封印は、自転車からぶら下げていたコンビニで買ったパンと珈琲牛乳の入った袋を守りながら学校の裏を囲む草木をかき分けて、目印の石の置いてある部分までしゃがみながら進んでいた。

石の置いてある部分だけ、柵が破れていて草木に覆われているので、学校の中からは見えなくなっていた。

学校の校門には、防犯カメラやブザーがついていたけれどこの道から学校の屋上にかけての階段は、どうやらなにもない様だった。 

検証済みの封印は屋上につくや、定位置に腰掛け珈琲牛乳の紙パックを開けた。ラジオからは、いつの間にか60年代フォークソングが流れており、朝の澄んだ空気の中

パンにかぶりつきながら街を、見回した。

その時いきなり耳元からノイズが走る。

一瞬耳の裏がチカチカとした。

「おはようございまーす。ラジオの前の君聞いてるかな。まぁ、聞いてないだろうおそらく。」 そう、若い女の人の声が聞こえた。若い女の人とゆうよりも同世代な気がする。パーソナリティの声とは明らかに違い、ラジオの異変が封印の耳にも伝わる。

封印は左右のイヤホンを耳にきつく抑えながら、声を聞くのに集中した。

「尚、鍵の付いた手紙を拾った君に告ぐ。君に追加文を与える。それは、夕日重なる五時の空。もう一度言う。夕日重なる五時の空。」 

無音の状態になったかと思ったら、後にまたノイズが走る。さっきより強い。鼓膜が小さく震えた。

「おい!おい!!!聞こえてるのか!!?」

一瞬、寒気がした。なにか、男の声が精一杯に叫んでいた。演技ではない、状況は分からないけど、切羽詰まった叫び声が聞こえたあとでラジオの音が消えた。無音の5秒間。耳に、封印の耳の中ではまださっきの男の声がこだましていた。

その後で、パーソナリティの動揺した声が聞こえてきた 

「なんっなんか今流れましたよね?電波っ!えっ電波ジャックですか?」スタッフの方を見てるのか、パーソナリティがウンウンウンウンと、うなずく声が聞こえてる。

その後、番組は普段どうりの放送テンションを持ち直し進行した。パーソナリティ同士の日頃の反省談が始まり辛抱して待っても一向に電波ジャックの話にはならなかった。ラジオを切り「ラジオ ジャック」で携帯で検索しようとしたときに、慌てて思い出した。

昨日の夜、ベットの上で充電したまま携帯を持ってくるのを忘れてしまった。


さっきのはなんだったんだよ。

鍵を拾った君に告ぐ。夕日重なる五時の空、だと? 。

正直、恐怖でいっぱいだった。

カワボの女の人の声に、完全に拾った人にしか分からないであろう、メッセージの追加を言われた。そのあとの、ノイズの男の声。

少しずつ明るくなる空を見ながら 

封印は一人の勇者として、震えた。

俺は、勇者じゃないのかもしれない。 

そもそも、電波をジャック出来る奴なんて、国家を崩壊させる事が出来るレベルのやばいやつなんじゃないか。

それにさ、気のせいだろ。今の奴だって風船に付いていた手紙の鍵だとまでは言っていない。

名前だって居場所だってバレていない。鍵を拾った君。って、あの日鍵を拾った君がこの世に何人いるってんだ。

俺だなんて言ってないし。まったく俺だなんて思うのって自意識過剰だったかな。はははぁ

いますぐに、この気持ちを誰かと共有したい。すでに封印は自分一人ではこの感情を、抱えられないと早々に判断していた。元々怖がりだし、隠し事も得意なタイプでは無い。不安のフの字も受け入れる体制はない。この生まれ持った基本スペックも、そうしろ。と封印の心をを後押ししていたと思う。


校門が開く時間まで、学生カバンの手紙を取り出し、見つめた。

その手紙を、読み返す内にみくるみく気が変わった。

探したい気持ちが高まり、探したくない気持ちが高まる。その2つの波が合わさった時に、ホコリをかぶった『王道RPG初心者スタート(仮)』とゆう脳の回路が再び、火を吹いた。

やはり、探そう。

鍵を探している人が困っているかもしれない。とかゆう、ボランティア精神はもう今となっては、言い訳に過ぎないだろう。

正直、自分でも気づかなかったがいつか、とてつもなく好奇心をくすぐる事が起こることに期待して毎日を過ごしていたのだ。

ふと、封印の頬に雪が降ってきた。

今年の冬は寒い。

こんな冷え込む寒さの中、屋上で流暢に寝ている場合ではなかった。校庭にもどり、校庭の隅にある野球部のプレハブ小屋の部室に侵入し、ストーブをつける。

染み渡る。

ふと、転がってる雑誌の表紙に目をやると『アームi特集』と書かれていたので、手に取り適当にめくっていると、早川達が言っていたように本当に高校生が作ったゲームらしかった。元々はパソコン用のゲームとして、小学生の頃に一人で作ったゲームを無料配布したところを当時としては、異例のヒット作となり今年、高校生になり『アームI』としてスマホ板リリースが開始され、実はゲームをしてる人の間では、かなり話題の人だったようだ。

すごいなぁ 率直な感想だ。何がすごいかどう感じているのか感想文を書くことが苦手な封印の精一杯の感想だ。

かなり努力をした人に違いなかった。どんな人なのかは記されて居なかったが、これが本当にメガネをかけた男子高校生でなく、女子高生の功績ならば喜ばしいにことかぎりない。

そんな思惑を含ませながら、パイプ椅子にだらしなく座っていたら、二限目の体育の授業が始まるまでここで寝てしまうとはこの時は、思いもしなかったのだった。

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