彼らはきっと、人の気持ちをかんがえることができない
「ぁぁぁあぁぁぁぁぁ(ry !」
──いでぇぇぇぇぇぇぇえ!
なんかぶつかった!何に?!壁?!なんで壁?
頭をぶつけたせいでつい五秒前程度の記憶が飛んでいる。いや、もっと前かな?気がつくと強烈な痛みが頭を支配してて、真っ白い壁が目前に広がっていた。
「おかえり!我が《つまらない日々を変える》軍へ!」
──ワガツマラナイヒビヲカエルグン?
──我がつまらない日々を変える軍……
漢字に変換するまでに五秒かかった。。。やっぱ頭いったか。
「何そのネーミングセンス……てかそれネーミング?」
つまらない日々を変える……?
そのまんま文章じゃん。他に何かなかったの?
ん……?待てよ?
…………!?
「ここどこ?」
やっとそこまで辿り着いた脳ミソは、本来の働きを取り戻してきているようだ。気づいたら白い空間にいたってとこすっ飛ばしてネーミングセンスの話をしているあたり、僕の頭しっかり動いてなかったね。
………!?
「お前どこいんの?!」
第二の気づき。あの不審者どこいんの?
白い空間を見渡すが一向に見当たらない。てか何もない。
さっきもそういえば、何もない空間から声がした気がする。
「あーごめんごめん。無理矢理サークルに突っ込んじゃったせいで記憶の欠落が見えるねー」
サークル?欠落?何それ。
………!?
「おかえり?!」
さっきあいつ「おかえり」って言ったよね?僕ここ来た覚えないんだけど。
「なぁ不審者、これどうなって──」
四角い穴があった。いや、穴と呼んでいいのか、そもそもそれがなんなのか全く分からないものが貼り付いている。茶色い何か……。それが次第に色々なところにできて、
「……?!」
何か君の悪いものに飲み込まれる感覚、次の瞬間、バーのようなところにいた。
ごめんなさい。次から次に訳のわからないことが起きて──
「やぁ。見えた?」
ほらまた起きた。次から次へ──
「は?!ここどこ?!えてかどーやってここ来たの?!は?!えぇ……」
木でできていて全体的に茶色い店内と、カウンター。そこには一人の少年……いや少女?が両肘をついて飲み物を飲んでいる。僕はカウンターの少し後ろ、扉の前で座り込んでいて、屈んでいる不審者少年に顔を覗きこまれていた。
「タイムラグが起きてるねー。反動が強すぎたかな?」
「へ?」
頭、やばい。
思考が鈍って、不眠続きの時のような。視界も脳ミソもボヤボヤしていて、目で見ているものをそのままにしか捉えられず反応が遅れてしまう。
「えっと、もう一回聞いていい?」
と、ここまで来てやっともう一度頭に浮かんできた疑問をぶつけるべくそう質問する。
「何かな?」
えっと、なんだっけ?
えーと、……。
──あそう、
「ここはどこですかね?」
なんで敬語?!というつっこみが頭に浮かぶまで五秒。次に不審者少年の発言を認識するまで十秒。
「あれ、そこまで?」
アレ、ソコマデ?アレ、ソコマデ?
不思議がる不審者。何言ってるんだ?
アレ、ソコマデ……あれ、そこまで。
え、そこまでってどこまでだよ。意味わからん。。。
「ねーねー、蒼汰が~。サークルの不具合かな?」
不審者少年は振り返りカウンターの少年or少女に声をかける。
カウンターに座る少年or少女はゆっくり振り返ると、口を開いた。
「ん、蒼汰」
カウンター少年or少女と呼ぶことにしよう、名前わからないし。
そしてもうひとつ、名前を呼ばれてカウンター少年or少女の目を見て、鳥肌がたった。
やっぱり思考が鈍ってる。鳥肌がたった理由を整理するのに十秒かかった。
──えっと、あ、ん、そう。
目に光がない。んー、そのまま、瞳が光を反射していなかったっていうの?死んだ魚の様に力がなく、絶望したような目?だと思う。
そんな僕を見て不審者少年は苦笑しながら首を振ると、ほらね、とカウンター少年or少女に笑いかけた。カウンター少年or少女もそれに苦笑で応え再び僕の名前を呼ぶ。
「蒼汰さ、どこまで覚えてるの?」
だからなんだよそれ、てかお前ら誰だよ。鈍ってて気づかなかったけど、よく考えたらなんで僕の名前知ってんの。僕達知り合いでもないのに下の名前で呼ばれる筋合いないし。
「おい、そりゃないんじゃないのか」
カウンター少年or少女が声を荒げる。椅子から立ち上がり上から睨み付けられ、訳もわからず目をそらした。
「まぁまぁ、今の蒼汰に怒ったって意味ないでしょ?それにあれは、蒼汰だけのせいじゃない。俺たちの責任でもあるんだからさ」
不審者少年が宥めるように言ったが、余計に訳がわからない。
「……」
カウンター少年or少女はしばらく黙ったあと、そうだな、と頷いた。そして、ゴホンと咳き込む。
「俺は鳥居小路。下の名前は優良。よろしくな」
おぉ、自己紹介タイム。
鳥居小路優良と名乗ったその少年は、さっきまでカウンター少年or少女という名前だった抽象的な顔立ちの奴だ。
そしてここは《中間地点》というらしく、なんでも《現実世界》と《天国》の挾間にあるらしい。カウンター客側の扉が現実世界行き、カウンター店員側の奥にあるごく普通の見た目の冷蔵庫が天国行きだと──馬鹿野郎。
もう随分時間がたって脳ミソも元の動きを完全に取り戻していたし、正常な思考回路を取り戻せた。さっきまでの蒼汰くんとは格が違うのだよ。
そんな話、信じると思うか?馬鹿じゃないの?
まず、どうやってここに来たのかっていうこと。それにここ。思わず中二病かよってつっこみたくなった。サークルだとか天国だとか言ってかっこつけてたけど、実は頭殴って連れてきましたとかだろう?そんなに設定盛ると信憑性無くなるぞー。
「信じてもらえたかな?」
びっくり、こんなのを信じて貰えるとでも思っているのだろうか。そんな思いを込めて首を振る。
「そかそか~。どうやら思い出させるのは無理らしいね」
「そうだな。完全に記憶が消えてる」
苦笑と苦笑が交わされる。ムカつくな~。
「ねぇ、僕って本当に記憶消えてるの?」
二人の間にそう投げ掛け、様子を見る。すると不審者少年がなぜか飛びきりの笑顔を作って、かなり錆びたスマホの画面を見せてきた。
「これの意味、分かる?」
ん?えー何々。
──2024/10/10/12:38
二千……十四年?
何か違和感が………そうだ。
思い出せ。思いだせ思い出せ。今日書き始めた日記。そこに、今日の日付を書いたはずだ。
脳ミソをフル回転させ、瞼を閉じる。二千……ぬぬぬぬぬ。。。ぬ──
──20210606。
不意に頭の中に、その文字がはっきりと浮かんだ。
そしてなぜか分からないけど、その数字が日記を書き始めた日付なのだと理解する。表現がしづらいが、こう、頭の中にこびりついているというか、むしろ中央にどっかりと腰を掛けているような。
「ぇ……?」
不審者少年は驚く僕の反応を見てにんまりとした。そしてカウンターの椅子に腰掛けると、何かを思い出したようにびくりとして立ち上がる。
「いや~、一年経ってもこのクセ抜けないねー」
カウンターの内側に歩いていく不審者少年がそんな独り言を言った。
鳥居小路はそんな少年を見て俯き、一息にグラスの中の飲み物を飲み干す。
「まーまー、それでね?」
先程の様子とは変わって、グラスに青色の液体を注ぎながら少年は話始める。
「その三年間の記憶って、ある?」
……。そういうことか。
「ない」
素直にそう答える。
「だよね」
確かにチラシを受け取ったあの日は2021年だったはずだ。少なくとも2024年ではない。じゃあ本当に、僕は記憶を失っているということなのか?このふたりの記憶も?
そういえばすっかり忘れていたが、ここに来る前の記憶がすっぽり抜けていた。このチラシ配り不審者少年から逃げていたところからここに来るまで。その間に、三年分の記憶があるということなのだろうか。
つまらない日々を変える軍 @sou_rashi
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