第24話 叶(かなちゃん)
犬を飼う事になった。
というのも.....夢が望んだのである。
それで飼う事にしたのであるが。
最初に抱っこしたチワワを飼う事になった。
一応だが家にアレルギーを持っている人は居ないので、まあ良いかな、と思う。
「.....お兄。良いの?本当に犬を飼って」
「まあもう契約したしな。お前の心の拠り所になるならそれが良い。俺はそれを望んでいるしな」
「.....お兄.....」
俺を心配げな眼差しで見る夢。
子供がそんな心配するな、と言いながら俺は夢の髪の毛をグシャグシャにする。
それから笑みを浮かべた。
まあ正直言って痛手ではある。
契約するのに30万円だったからな.....諸々込みで。
書類を持って俺は苦笑する。
だが思い出は買えない。
つまり.....お金に変える事の出来ないかけがえのない物が出来たという事だ。
お金に引き換える事は出来ない。
「.....お兄。無理しないでね」
ペットケースからはチワワ。
まあそのめっちゃ小さな犬が目に見える。
周りを不思議そうに見ている。
多少は怯えている様にも見える。
俺はその姿を見ながら夢に、チワワとかに言い聞かせる様にそのまま、大丈夫だって、と答える。
「.....でもお世話はきちんとしろよ?.....コイツだって俺達と同じ様に生きているんだからな」
「お世話するに決まっているでしょ。お兄ちゃんがかけがえのない物をくれたんだからそれを大切にしないと」
「.....まあそうだな。.....心配する意味が無いか」
「.....うん」
夢は俺を見てから笑顔になる。
チワワは俺の視線を感じたのかひょこっと引っ込んだ。
その姿に苦笑いを浮かべる。
どうも嫌われている様だな.....主人なんだけど。
考えながら歩く。
「.....お兄」
「.....何だ?」
「.....有難うね。お兄が側に居るから.....ってあれ?何でこんなに赤くなるんだろう私。何か熱が篭ってる。体に。あっちっちー」
「.....」
それはな夢。
多分きっと、恋、って言うんだ。
思いながら俺は夢に向く。
当てずっぽうな感じで答えよう。
今はその感情が俺に向かない様に、だ。
だって俺に恋をしても.....10年近く違う何かがある。
俺なんかに恋をしても無駄だ。
思いながら俺はチワワの書類をチラ見してから。
少しだけでも気を逸らせてくれたらな、と思った。
「ねえ。お兄」
「.....?」
「.....チワワ有難う」
「.....叶の事か」
「.....そう。叶。.....願いが叶う様にって」
「.....ああ」
そして俺達は帰宅する。
すると鈴さんが神妙な面持ちで帰って来た俺達を見る。
それからじわじわと涙を浮かべてからゆっくり抱きしめて来た。
俺達を纏めて、だ。
夢と俺を見た鈴さん。
「.....お母さん.....?」
「私が悪かった。.....御免なさい.....夢」
そんな事を言いながら泣き崩れる鈴さん。
俺はその姿を見ながら夢に向く。
夢は強い顔をしていた。
つまり以前の様な感じではない少し成長した夢の顔だ。
俺は驚愕する。
「私、乗り越えるって決めたんだ」
「.....何を?」
「.....私は.....今を乗り越えて.....みんなに接する」
「.....叶と一緒にか」
「.....うん。かなちゃんと一緒に」
その当の叶は何か満足そうな顔をして寝ている。
俺はその姿を見ながら苦笑した。
やれやれ、だな、と。
何故かといえば叶と夢が同じ様に見えたから、だ。
相棒の様に.....同じ傷を持った者の様に。
「私、叶が居る事で.....世界が違って見える」
「.....叶のお陰で?」
「お母さん。傷付いていたんだよね。きっと」
「.....夢.....」
「.....こんな私のわがままに付き合ってくれて有難う」
「.....夢。強くなったな」
「.....私は強くなったんじゃないよ。.....強くなっただけの見せ掛け。でも.....きっと何かその見せ掛けでも強く成長する糧になると思ってる」
「.....それを強くなったって言うんじゃないか?ハハハ」
もー。お兄のばか、と言う夢。
俺はその姿を見ながら笑顔になる。
すると鈴さんが涙を拭って立ち上がった。
それから、おやつ用意してあるの、と切り出す。
「叶ちゃんにも一緒に食べさせよう」
「.....それ良いかもな。.....かな、も食うかな?」
「.....食べると思う。食欲は旺盛じゃない?」
「そうか。まあ.....食欲旺盛が1番だよな」
それから俺達は見合う。
そして叶を放してみたのだが.....まあ残念ながら慣れてない。
直ぐに叶は慌ててサークルの中にある小屋に入った。
そりゃそうなるわな、とは思うけど。
「.....かな、徐々に家に慣れると良いけどね」
「そうだな.....まあこれは時間との勝負だとは思う」
「.....だね。お兄」
「.....私も居るから頑張って家族になりましょう。みんなで」
「.....そうですね。確かにその通りです」
それから俺達はまた改めてかなを見てみる。
かな、は家の隅っこで少しだけ怯えながらも新しい空間に鼻を動かして見ていた。
そして丸まる。
そして少しずつ時間が過ぎていき.....かな、も慣れたのか動き出す。
そうしてから周りを見渡していた。
何だか.....ここに来たばかりの夢を思い出す。
こんな感じで怯えていたよな、と。
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