第21話 喫茶店内にて
こんな事で田中に頼むとは思わなかった。
そもそも、信頼出来るのかどうかすら分からないのに。
俺はその様に思いながら、近所に有るマスターが爺さんの喫茶店で待つ。
内装はそれなりに雰囲気の良い、洋風の喫茶店だ。
15分ぐらいが経った時、喫茶店のドアがカランカランと音を立てて開いた。
俺は確認する。
ユニ○ロの上着を羽織った、少しガサツな服装の田中だった。
俺の言葉に慌てて準備した様子が伺える。
その田中を見てマスターがチラッと俺を見てからマスターは動いた。
マスターはコーヒー豆を挽く。
「.....田中。すまんな。慌てさせたみたいで.....」
「全然大丈夫!.....ごめんね、こんな服装で。慌てて来たから.....」
本当にコイツ、昔と違うな。
伊達眼鏡で全く目立たなかった存在だったのに今となっては俺より目立っている。
髪の毛は少しのブロンドのウェーブが掛かり、ふわふわして、顔も薄い化粧して、それなりのリア充に見える。
俺は少しだけ昔の事を思い出した。
良い記憶を、だ。
カウンターに居る俺の右横に、よいしょ、と言って田中が腰掛ける。
そして俺に聞いてきた。
「それで.....相談って何かな.....聞いて良いのかな。直球で」
「.....簡単に言ってしまうと、俺の義妹の話だ。俺、再婚したんだ」
「.....そうなんだ。そのご家族は元気?」
「あまり驚かないんだな」
ちょっと驚いたけど、そんなに驚く事は無いと思うよ。
田中はその様に言葉を発して、笑みを浮かべて俺を見てくる。
俺は苦笑いを浮かべながら、田中を見る。
すると、目の前に挽きたての豆で淹れられたコーヒーが出て来た。
「わー。良い香り」
「.....ここは一人になりたい時にオススメの場所だな」
「.....そうなんだね。うん。そうなんだ」
田中はコーヒーを飲みながら、美味しいと言った。
今の時期には良い選択だと思う。
思っていると、田中がカップを置いて聞いてきた。
「義妹ちゃんの相談で私を選んでくれたのは.....女の子だから?」
「お前は本当に察しが良いな。昔から」
「変わらないからね。頭ってのは」
「お前は変わったがな」
フフッ、そうだね。
と田中は笑う。
俺も少しだけ笑みを浮かべた。
コイツの事を信頼出来ず、あまり笑えないけど。
「.....義妹ちゃんがどうしたの?」
「.....簡単に言えば.....義妹の生みの親の母親と関係が悪化した。亡くなった父親の事で、だ。完全に母親を信頼出来なくなったんだ。それで俺ばかり信頼してくるんだが.....どうしたら俺が義妹と義妹の母親を仲をもう一度よく出来るかなって。女の子の心理は分からない」
「.....そうだね.....」
田中がカウンターに頬杖をつく。
俺はそれを見ながら、珈琲を飲んだ。
思えば、俺達は大人なのにコーヒーってのも皮肉なもんだ。
良いのかな、これで。
「.....女の子は砂糖菓子の様に繊細だから、気を付ける事。あと、女の子の心も繊細だから気を付ける事。とっても女の子は.....傷付きやすいから.....」
「.....そうか」
「私の経験上、無理に仲直りさせるのは良く無いよ。男の子と違うから.....本当に、女の子って」
「.....やっぱりお前が居て正解だったな」
その様に俺は思って、田中を見る。
田中は少しだけ赤くなって俺を見ていた。
俺はクエスチョンマークを浮かべながら、田中を見る。
「何で顔を赤くしているんだ?」
「あ、えっとね.....」
俺を真っ直ぐに見てくる、田中。
その唇がゆっくり動いて俺を上目遣いで見てきた。
俺は首を傾げる。
「えっとね、本当に嬉しかった。私が矢島くんに頼られて.....本当に有難う、矢島くん。こんな時にごめんね、いう言葉じゃ無いんだけど.....矢島くんって今、付き合っている人は居るの.....?」
「.....」
分かった、そういう事か。
俺は少しだけフッと笑みを浮かべ断る言葉を用意した。
本当に申し訳無いんだが。
「.....お前は.....俺が好きなのか?田中」
「.....う、うん.....ずっと、ずっと高校時代から.....憧れてた。クールな面に.....」
「.....ごめんな。俺は.....誰とも付き合う気は無い」
本当にすまないという気持ちを表しながら田中に謝る。
田中は見開いて、そして笑んだ。
それから、俺を見てくる。
「だよね。うん。そういう面も大好きだった」
立ち上がる、田中。
そして、ピースサインを出して俺を驚かせた。
田中は前を見据えて言葉を発する。
グッと握り拳を両手で作ってだ。
「.....でも、諦めないよ。私、貴方が好きだから」
「.....!」
まさかの事に驚愕した。
諦めてないなんて、と思って。
そして田中はニコニコしながらまた椅子に腰掛ける。
それから、俺に向いてくる。
「.....悪く無かったら義妹ちゃんの名前、教えてくれない?」
「.....夢だ。十島夢だよ」
「.....夢ちゃんか。良い名前だね!」
笑みを浮かべて俺を見据える、田中。
俺はその元気過ぎる田中に何時もの様に少しだけ笑みを浮かべた。
好きとかじゃ無い、別の気持ちが込み上がってくる。
信頼して良いのだろうか。
その様な、だ。
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