俺達の試練

歩み出す1歩

第19話 家族の絆の崩壊

甘かったとその様に俺は思う。

救急車に乗り込んで、呼吸器を着けた夢を見ながら俺は病院まで来た。

この場に今現在、七家、佐藤、俺、鈴さんが居る。

親父も後で来る。

俺と鈴さんは医者に向いていた。


「過重のストレスで一時的な過呼吸になったと思われます。そこは問題では有りませんが.....問題は夢さんが目覚めた後ですね」


「.....夢.....」


鈴さんが目頭にハンカチを当てる。

俺は前を見据えて、額に手を添えた。

10歳の少女でしかも10歳の精神年齢じゃ無い、夢。

簡単に言えば精神が少しだけでも成長しているだろうと甘く見ていた。

本当に俺が悪い、駄目人間だ。


「.....仏壇がPTSDの発症原因だなんて.....何時も仏壇を見せているから大丈夫と思ったのに.....何で.....」


鈴さんがその様に呟く。

それは全くその通りだと思うな。

本当に何時も見せているから、大丈夫と思っていたんだが。

俺の所為だな、本当に馬鹿野郎だ俺は。

何も成長してない。


「あまり自らを責めないで下さい」


医者が、その様に呟いた。

俺はその医者に目線を向ける。

医者は顎に手を添えて、そして俺に真剣な顔を向けた。


「PTSDについて、どれが発病原因になるか分からないんです。常に周りに危険は有る。夢さんはそれなりに頑張ったんだと思います。が、ふとしたキッカケで.....だと思います。それは防ぎようが無い。私達も全力を尽くします。自らを責めないで下さい」


「.....お願いします」


では、と言う医者の元を俺達は後にした。

そして、目の前に真剣な表情で居る、七家と佐藤に向く。

もう隠しきれないな、流石に。


「.....浩介.....夢ちゃんは.....」


「.....七家。ここまで来たらお前らにも話すけど.....夢はな.....色々病を抱えているんだ。父親が亡くなってから.....ずっと頑張ってきていたんだが.....」


佐藤と顔を見合わせる、七家。

それから頭を勢い良く七家は下げた。


「すまん.....俺の所為だな」


「お前は、佐藤は何も悪くない。全部が俺の所為だ。そう、俺のな」


歯を食い縛って拳を握る。

昔から相変わらず駄目だな俺は。

結局、役立つなんだな俺は。

その様に、思っていると佐藤が手を俺の手に伸ばしてきた。


「.....矢島くん。貴方は精一杯、頑張ってきた。少しだけしか見てないけど、貴方は太陽の様に全てに手を指し伸ばしていた.....だから、自分を責めないで.....」


「.....そうですよ。浩介さん。本当にどれだけ私達は感謝しているか.....分かりますか?」


「浩介。今度は俺達がお前に恩返しをする番だ」


3人はそれぞれその様に話した。

この人達に俺は精一杯、手を指し伸ばせて。

世界を変えれたのか俺は。

希望が、その全てが残って無かった様な高校時代と違うと思って良いのだろうか。

俺はその様に思いながら、治療中の夢の事を思いつつ治療中の病室を見据えた。



「夢.....」


小児病棟に帰って来た夢の元へ急いで俺達は向かう。

病室のドアを開けると、目の前のベッドに夢が。

俺の言葉に俺の方向を見て来る、また新しいシャツやズボンに着替えている夢。

そして、目に涙を思いっきりに浮かべてギンと音が鳴る様な感じで鈴さんを思いっきりに睨んだ。

そして、手に枕を持って鈴さんに投げ付ける。

見た事も無い、反発だった。


「嘘吐き.....お母さんの嘘吐き!!お父さん生きているって.....言ったのに.....全然違った!!一緒に葬儀に出席したの思い出した!!それなのに.....私には生きているって.....信じてたのに.....」


思いっきりに号泣し始めた、夢。

声を上げながら、ただひたすらに父親を求め泣いていた。


「お父さん.....お父さん.....うわーん!!!」


俺は俯いて、口に手を当てて涙を流す。

もう耐えれなかった。

佐藤も、七家も泣いている。


「.....夢.....騙す気は無かった.....の.....信じて.....お願い.....」


「お母さんなんか嫌いだ!私はお兄しか信じないもん!信じられない.....!」


もうどうすれば良いんだ。

可哀想で悔しくて涙が止まらない。

何で神様とやらは役に立たない奴しか居ないんだ?

俺の時も、夢の時も!

結局は人を選ぶってか!!


「.....お兄.....お兄は嘘は吐かないよね.....?信じて良いんだよね.....?」


俺の元に裸足で勢い良く駆け寄ってくる、夢。

そして俺にしがみ付いた。

俺はそんな夢を見ながら、悔し涙を流す。

初めて、家族が分裂の危機に晒されている事件だった。



この世界には神は居ない。

矢島、つまり俺は母親を神と思っている。

夢はどうだろうか?

全てを信じられなくなった夢は。

俺自身を神と思っているのだろうか?


「.....」


「.....」


病院からの帰り道。

七家のバンの中で、夢は本格的に母親を敵視していた。

まるで、かつて俺が父親を敵視していた様な感じで、だ。

かつて俺はどうやって解決したのだろうか。

この状況を、だ。


「.....夢。鈴さんはあくまでお前の為に.....嘘を吐いていたんだと思うぞ」


「信じない!!私は.....ッ.....」


また涙を浮かべた夢は俺の膝で号泣し始めた。

佐藤が宥め、俺に縋っている夢は涙を俺に向ける。

鈴さんが俯いてから、顔を上げて夢を見ていた。


「.....流石に.....悔しいな。神様ってヤツが憎いよ。俺も。そもそも神様って居んのかね。居ないと思うよ俺は。神に祈るって結局は無駄な祈りなのか.....?」


七家はその様に運転しながら話した。

佐藤もそうだね、と深刻そうに言葉を発する。

そんな俺は外を見ながら明日の行方を模索していた。

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