第18話 PTSD
七家の子供達と夢と俺達と盛り上がってガヤガヤとなっている中で、俺は七家に呼び出されて七家の家の外に居た。
夕日が照らす中、俺は七家を見る。
七家も俺も七家の家の壁に寄り掛かっていた。
そんな中でセブンスターと呼ばれる、七家が好んでいる煙草を胸ポケットから取り出してから七家は少しだけ笑みを浮かべて聞いてくる。
「.....吸って良いか?」
とだけ。
俺はその言葉に尻目で七家を見ながら、頷く。
そして俺は僅かに和かな感じで腕を組んで七家に言葉を発した。
「.....大丈夫だけどよ、お前、煙草は止めたんじゃ無かったか?」
「.....ちょっとな。この時期になると自暴自棄になりたい気分になるのよ」
「.....そうなのか?.....まぁお互いに理由が色々有るって事だな」
手で隠す様にして七家はライターで煙草に火を点けてから煙を吐く。
まるで冬の吐息の様に上がる、煙。
七家が俺に向いてきた。
その目は初めて見る様な目で俺は動きを止める。
なんだこの目は?
「.....お前に悩み事を話しても良いのかな」
「おい、いきなり弱気になったな。どうしたよ」
「.....俺な、実の所、優しく見えるかも知れないけど、実際は.....少し何もかもに怒り当たりすぎかもしれない様な奴なんだ。チビ共とかに。.....お前に話したかどうか知らないけど、うちの両親は俺達を見捨てて去って行きやがったんだ。だから俺は.....親の事を許せなくてな。俺は良かれだけどチビ共を置いて去った事に今でもぶっ殺したい気持ちが有るんだけど.....まぁそれは抑えつつ。それでチビ共にキツく当たっているんだわ。あんな大人になるなよ、ってな。それだけじゃ無いんだが、子供の養育費とかも結構大変でな。苦労してストレスが溜まっているんだわ。捌け口が見つからなくてな」
「.....七家.....」
驚愕の眼差しを俺は向けた。
予想はしていたが、そんなにもひどい状況だとは思わなかった。
俺が甘いだけか。
酷い奴だ俺は。
「それでな、お前に同期として会えた事が本当に幸せだったんだ。こう言っちゃ駄目なんだけどな、そしてお前に謝らなくちゃいけない。お前と俺は同じで、苦労しているって。その苦労を分かち合える友人だなって。だから嬉しくて.....お前の事を勝手に俺の.....目標っつーか。すまん。言葉が出て来ないんだけどな.....本当にすまん。なんか.....俺の捌け口にしてた。.....本当にすまん、矢島」
俺に頭を下げてくる、七家。
そうだったのか。
俺は人の助けになっていたのか。
そうは思えなかったけど、七家の助けに。
「.....顔を上げろよ。美琴」
「.....え?お前今.....」
「お前なら良いよ。俺の事を名で呼んで。少しでもお前の助けになれてたんなら俺は.....嬉しいよ」
「.....浩介.....お前、やっぱり最高だわ」
ニカッと歯を見せて笑う、美琴。
俺はそんな美琴を見ながら、夕日を見る。
「.....美琴、俺な、お前を信頼出来ないって思っていた」
「.....ああ」
「そんな中でお前は俺に何の隔たりも無く、接してくれた」
「.....」
七家は煙草の煙を吐く。
お前のその優しさ、俺への友人扱い。
それがどれだけ俺が救われたか。
俺は分からない。
そのおかげで凍り付いていた俺の心が少しづつ溶け出したんだ。
「.....佐藤も、お前も、夢も、鈴さんも。みんな俺を助けてくれる。それがどれだけ嬉しいか.....涙が出るよ」
「.....俺は何もしてねぇよ。お前に優しさを分けているだけだ」
「アホ。それが最高だって言ってんだ」
俺は口角を僅かに何時もの様に上げる。
七家は分からないだろう。
佐藤は分からないだろう。
夢は分からないだろう。
鈴さんは分からないだろう。
俺がどんだけ苦しくてそれで君達のその存在が何処ぞの菩薩の様に見えたのが、だ。
「心が少しづつ、少しづつだけど。みんなのおかげで自我を取り戻しつつある.....有難うな、美琴」
バァン!
「「!?」」
突然、玄関が蹴り破られるかの様に開いた。
俺達は驚愕する。
すると、佐藤が必死に訴えてくる様に。
俺達を見てきた。
「大変!七家くん!矢島くん!夢ちゃんが.....夢ちゃんが.....!」
「.....え」
「浩介!行って来い!!!!!」
美琴が叫ぶ。
手に持っていた煙草を落としながら、だ。
俺は頷いて直ぐに家の中を猛スピードで駆け上がる。
そこに、夢が倒れていた。
「ヒューヒューヒュー.....」
なんだこれ、いや、ちょっと待ってくれ。
俺は顔を青ざめさせて、足がガクガク震えだした。
夢が過呼吸を起こして倒れている。
佐藤が叫んだ。
「救急車が来るから!もう直ぐ!なんでこんな事に.....!」
周りの子供達も心配そうに涙目になっている。
俺は視線を夢から外して、夢が倒れている方向の一点を見た。
その一点には有る物が置かれている。
「.....まさか.....」
仏壇。
それが置かれていた。
考えを巡らせる、これはまさか、いや。
そんな馬鹿な事が?
俺の家にも有るじゃないか仏壇は!
「フラッシュバックって事か.....くそう!夢!!」
「ヒューヒュー.....ヒュー.....」
ピーポーピーポー
それから直ぐに夢は病院に運ばれた。
そしてその結論から言って。
夢が過呼吸を起こした原因が判明した。
それは、簡単に言ってしまうと。
多分、夢の親父さんが亡くなった事を思い出したPTSDだった。
この世に既に親父さんが居ない。
その事を思い出したショック性の、だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます