第16話 七家の家

翌日、喧しいアラームに叩き起こされ俺は会社に向かう為に起きた。

周りを見渡しても、今日は夢は来なかったな、と思いつつ、だ。

久々に部屋に置いてある時計というモノを使ってみたが、ウルサイ。

いや、俺のスマホのアラームも十分、喧しいのだが。


「.....月曜日か.....何だか身体が重くて行きたくねぇな.....」


その様に呟いた俺に驚愕する俺。

ひと昔前とはえらい違いだ。

あれだけ家に帰りたくなかったのに家が神聖な感じがして。

家に帰りたい、と言うか、会社に行きたく無い。


「.....だけど、働かないと金は稼げねぇしな」


俺は頬をぶっ叩いて起きた。

時刻は7時11分。

体内時計も狂いまくっている俺の一日が始まる。



「お・に・い!!!」


「うわ!?」


廊下で突然、肉の布団が飛んで来た。

いやまぁ、夢だけど。

俺は驚愕しながら、受け止める。

見ると、夢は寂しそうな顔で俺を見てきていた。


「夢.....また一人ぼっちだから.....早く帰って来てね?」


「.....」


そんな可愛い顔で小首を傾げないでほしい。

ある意味、会社を休みたくなる。

さっきの決心がボキッと折れてしまうから。

俺は苦笑して思いながら、夢を抱えた。


「.....なるだけ早く帰って来るさ。そうだ。帰ったら七家の所に遊びに行くか?」


「え!?ななちゃんの所!?行く!.....早く帰って来てね!」


おお、元気になった。

思えば、七家が遊びに来いとしつこく誘ってきていたのだ。

これはいい機会じゃ無かろうか、七家と交流.....出来るかも知れないから。

俺は余り乗る気にならないんだが。


「じゃあ、俺は準備するから。お前も日常生活の準備しろよ?」


「はーい!」


夢は相変わらずのニコニコ笑顔で話した。

俺はその夢を見ながら、手を繋ぎ。

一緒に階段を降りて行く。



「七家。ちょっと良いか」


会社の休憩時間に俺は横のデスクの七家に聞いた。

七家は待ってましたと言わんばかりに俺を見てくる。

それから珈琲を飲んだ、七家。

ちょっと気色悪い。


「どうしたヤシマ?」


「いや、まるでエヴァみたいに言うな。俺はヤ(ジ)マだ。アホ」


「おお、スワンスワン。で、どうした?」


「お前の家に夢を連れて行きたいが、今日は暇か」


これに対して、七家が見開いた。

それからウンウンと頷く。

俺にニカッと歯を見せて笑みを浮かべた。


「暇だな。うむうむ、友人の頼みとあっちゃ断れんな〜」


「.....」


友人か。

俺は考え込む。

すると、背後から肩を叩かれた。

振り向くと、頬に指が。


「あはは、引っ掛かったね」


「.....何してんだ佐藤」


「うん?何か楽しそうだから来たよ」


楽しいのかは知らんが。

俺は思いながら立っていると七家が勝手に喋った。


「コイツに凄まじく可愛い妹が居てよ。んで、今日、俺の家に来るんだわ」


「え!そうだっけ!?詳しく教えて!?」


「お、おい。七家.....」


そんなにベラベラ喋るなよ。

俺は慌てて止めるが、七家は喋ってしまった。

すると、佐藤の目の色が変わって俺に向いてくる。


「決めた。私も七家くん家に行く」


「はい?」


「アッハッハ!賑やかになるな!今日はパーティーってか!」


その様に会話していると、課長が俺達の背後に鬼の形相で立っていた。

あ、休み時間終わってやがる、と。

七家と俺と佐藤は固まった。



「俺の家はこっちの方角だ。夢ちゃん連れたらお前ん家まで車で行くから宜しく」


「私は七家くん家に行ってるね」


今日は退社時間が早かった。

俺は二人の言葉に頷いて、七家と佐藤と別れる。

電車に乗って。

そして、商店街を抜けて歩いて行く。

俺の家に着いた。


「ただいま。.....お、夢。準備は出来てるか?」


玄関を開け放つと。

まだかまだかと待っていた様な、夢が玄関先に座って居た。

夢は俺の顔を見て、リュックを背負ったまま笑顔で突撃して来る。

それを受け止めて夢の頭を撫でた。


「おかえり!お兄!」


「ただいま。.....よし行くか?」


「うん!」


すると、奥から鈴さんがやって来た。

その顔はちょっと不安げだ。

そんな鈴さんに俺は和かに話す。


「大丈夫ですかね.....?」


「大丈夫です。七家の家に遊びに行くだけですから。何も起こらないと思います」


「.....だったら良いんですけど、任せても良いですか?浩介さん」


「.....はい」


俺は鈴さんに頷いた。

すると、夢が手を上げて鈴さんに言葉を発する。

ニコニコ笑顔で、だ。


「お母さん、大丈夫だよ!お兄が居るから!」


「.....だと良いけど.....夢、あまり七家さんや浩介さんにご迷惑をお掛けしちゃ、めっ。よ」


「.....はーい!」


夢の様子を見ながら、俺は頭を下げる。

それから、夢を引き連れてメッセージを飛ばす。

と同時に家の前に車が停まった。

いや、え?


「よお!さっきぶり。あと、夢ちゃん。お久。まぁ乗れや」


「ちょ、お前と言う奴は.....」


「ななちゃん!お久!」


「お久!」


七家の車に即座に夢は乗り込んでからハイタッチする二人。

いや早すぎる、どんだけ浮かれてんだ七家は。

その様に思って俺は盛大にため息を吐いてから。

玄関先の鈴さんに七家と俺で頭を下げつつ、車が発進した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る