第15話 太陽の様で

思えば、俺の高校時代は最悪だったと言って過言では無い。

何故なら居る筈の母親が居らず。

離婚の影響も有ったり、親父とのいざこざが有ったり。

高校時代で俺は完全に心が折れた。

もうそれは激しく、だ。

だから俺は椅子を投げたり、教科書を投げたり、ナイフを持って行ったりして。

真面目に同級生を刺殺するつもりだった。

銃なら暴発させて、皆殺しにもしようと思うぐらいに。


チックタック


「.....」


日差しが差し込む部屋、時計の音が鳴り響く。

俺はベッドで横になっていた。

少し疲れたから、だ。

思えば高校時代もこうしていた。

10円ハゲにもなったぐらいなので、相当に疲れていたんだ。

そんな俺に夢、鈴さんという太陽が出来て。

今、俺は信じても良いのかという道を歩き出した。

ようやっと、一歩が踏めそうだった時。

俺は鮫島に遭遇して心にまた傷が付いてしまった。


「.....クソッ。酷い強迫観念だ」


俺は悪態を吐いて、スマホをベッドに投げ捨て立ち上がる。

そして棚にある薬を置いて有る水で飲んだ。

この場に薬を置いているのは、親父に接触したく無いという感情が有ったから。

だからなるだけ自分のモノは部屋に、という心が芽生えた。

最近は違う。

一階に置いても良いんじゃ無いかって思い始めた。


「.....」


キィ.....


「?」


「お兄.....」


茶色の髪の毛を可愛らしく(恐らく鈴さんに言って貰ったと思われる)アレンジした夢が入って来た。

靴下姿にTシャツ、ミニスカート。

先程と服装が違う。

まぁ汗でもかいたのだろう。


「.....どうした」


「え?あ、えっと.....お兄のことが心配で.....」


「.....相変わらずだな。夢は」


「.....え?」


俺の部屋に徐々に入ってくる夢に対して笑みを浮かべた。

そうだ、相変わらずこの子は。

俺に太陽の日差しをくれる。

母親以来かな、こんな感情を持っているのは。


「.....夢。お前は太陽だ。俺を照らしてくれる、太陽だ。何時迄も居てくれよな」


「.....え?え?お兄の側にはずっと居るよ?私。お兄大好きだもん」


「.....」


母親もそのように言っていた、だけど、親父が切り捨てる様に別れた。

そして俺は人を信じられなくなったのだ。

俺は夢を見ながら、涙を浮かべた。

悔し涙の様な、悲し涙の様な。

そんな涙を。


「.....」


「え、え!?お兄!?大丈夫!!?お兄!」


「.....ゴメンな。夢。お前を見ていると、俺の母親を思い出すんだ。お前のお母さんじゃ無い、お母さんをな」


もしかすると俺はクズ野郎かも知れない。

夢を母親の代用品と思って、(夢)、という存在とは思わずに接しているのかも知れない。

本当に、何処までも最低だ、俺は。

思っていると、夢が俺の腹を抱き締めた。

身長差が有ったら俺の頭を撫でてくれるかも知れない感じだ。


「.....お兄。大丈夫だよ。私はお兄のことが大切。お兄が大好き。だから泣かないで.....」


「.....すまんな」


疲れてる、と俺は思った。

仮にも年下の夢の前で泣くなんて。

絶対に、絶対に泣くつもりは無かったのに。

俺は涙を袖で拭きながら夢を見た。

そして、ゆっくりと抱き締める。


「.....ふぇ!?」


「.....夢。もう大丈夫だ。俺は.....お前にまた助けられた。恩返しをするからな。お前に絶対に」


「.....???」


傷付いた心が徐々に修復される。

RPGで言う、心を回復させる様な魔法の石とかそういうシロモノだ。

俺は夢を大切にしよう、絶対に、と改めて決意した。

夢が居なかったら俺はもう既に死んでいたと思う。

絶対に。


「.....母親の残像を合わせる事無く.....お前を大切にする。夢、大好きだ」


「..........ふぇ!?」


目をパチクリして、思いっきりボッと赤くなる、夢。

ああ、そうだったな。

俺は夢に好かれているんだ、あ、いや、その好かれている、では無い。

俺の事を(愛している)の好きだ。


「えっと、えっと.....何だろう。この気持ち!?」


「落ち着け。一次性のショック症状だから。簡単に言えば、問題無いから」


「お兄.....を見ていると.....心臓が高くなるよ」


林檎の様に真っ赤な夢。

俺は誓った。

いつかお前が誰かと結婚して、この場を離れる時は俺は強くなるから。

絶対に、な。

俺はその様に思いながら、真っ赤な夢を撫でた。



「今日は楽しかったよ!お母さん!」


「まぁ、本当に?良かったわね。夢」


俺は夕ご飯を食べながら夢を見る。

夢は口をべたべたにしながら、肉じゃがを食べている。

俺はそれを拭きながら笑んだ。


「.....浩介」


「何だ?親父」


「.....今日の事.....大丈夫か」


「.....ああ。ちょっとしんどかったけどな。大丈夫だ。夢が居てくれたから」


そうか、と親父は呟きながら、焼き魚を食べる。

そしてテレビを観ていた。

俺はそんな親父を見ながら、夢を見る。


「.....どうしたの?お兄」


「いや、何でも無いよ。夢」


いつか夢、お前の様に強くなれたらと。

俺は思った。

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