第14話 鮫島
メリーゴーランド、売店、キャラクターアトラクション。
それらに乗って楽しむ。
夢は本当に嬉しそうに楽しんでいた。
俺はそんな夢を見ながら、複雑な気持ちを持って考える。
あの女は確か昔、俺を友人と思って接触して来ていた女だ。
だけど最悪な思い出しか無いから俺は完全に忘れていた。
最低最悪の高校生活、俺を見捨てやがった教師と、絶対に許されない日常で今でもそれらは癒える事のない傷になっている。
「お兄?お兄.....」
「.....は.....あ、ど、どうした?夢」
「.....楽しくない?」
「た、楽しいよ!それはもう。お前が居るから」
夢は悲しそうな、複雑そうな顔で俺を見てくる。
すると、何を考えたか夢がいきなり、うん!と言ってから。
ジャンプして俺の頬にキスをしてきた。
俺は少しだけ赤くなる。
「.....おまっ!?」
「えへへ。おまじないだよ?お兄が元気になって、って」
ニコニコしている、夢に俺は驚愕の眼差しを向けつつ。
夢の頭に軽くチョップして、言う。
少しだけ怒りながら。
「他の奴にやるなよ?キスは」
「勿論、お兄とお義父さんとお母さんだけ!」
満面の花が咲いた笑顔で言葉を発する、夢。
全く、女の子ってのは本当に謎な感じの生き物だな。
俺はその様に思いながら、夢を撫でた。
すると、夢がプイキュアのアトラクションを指差す。
「次あれに乗りたい!」
「おう、じゃあ行こうか」
そして、歩き出す、その時にスマホが鳴った。
俺は画面を見る。
親父の様だ。
「もしもし」
『もしもし、浩介か。仕事が終わった、今何処にいる』
「あー、遊園地だよ。中のプイキュアのアトラクション付近」
『分かった』
親父が来たらそれなりに楽しくなるだろう。
俺は思いながら、夢を見る。
夢は早く、早く!と俺を急かしていた。
その夢に笑みを浮かべて、歩く。
☆
「あー楽しかった!お兄は?」
「楽しかったよ。可愛かったな。色々と」
「だね!」
俺達はフードコートで親父を待っている。
すると、向こう側からやって来た。
俺は立ち上がって、手を振る。
「親父!」
「おお。浩介、夢」
「お義父さん!」
直ぐに親父に抱き付く、夢。
俺はその光景を見ながら親父に話した。
親父は和かに夢を撫でる。
「.....すまねぇな。こんな場所に呼び出したりして」
「構わないぞ。俺も来たかったからな」
「嘘吐くなよ。でも有難うな、そう言ってくれて」
「.....そうか、あ、何か食うか。夢」
夢はうーん、と言ってから、うどん!と話した。
その言葉に、行くか、と言って夢を催促してうどん屋さんを目指す。
自家製麺だ、美味いだろう。
☆
「親父」
「.....何だ。浩介」
「俺、高校時代の女の子に会ったんだけどさ.....」
「.....!」
親父のうどんの麺を食べる手が止まる。
そう、親父はかつて俺を止める事が出来なかった。
俺がイジメに反発して教室内で暴れて停学になったのを、だ。
少しだけ悲しげな顔になった、親父。
「.....その事は.....本当に済まなかった」
「いや、でな、その女から連絡先貰ってさ。結構昔はわかり合っていた奴なんだけど、どう思う?」
「.....連絡してやったらどうだ。多分、罠とかじゃないと思うぞ」
親父の意見はそうなのか。
と、思っていると。
夢がいきなり俺の袖を引っ張った。
泣きそうな顔をしている。
「お兄.....何処か.....遠くに行っちゃうの.....?」
どうやら俺が、会う、という言葉を夢は遠くに行っちゃう、と理解した様だ。
俺は口の周りをスープだらけにしている夢の頭を撫でる。
そして、ティッシュで拭いてやった。
「.....大丈夫だ、夢。俺はお前から離れないよ」
「ほんとう?」
「本当に、だ。お前を見捨てる時は俺が死んだ時さ」
「.....うん、お兄がそう言うなら」
夢はうどんを食べるのを再開した。
俺はその光景を見つつ。
すでに伸びて生温くなった、うどんを啜った。
☆
午後3時30分。
流石の夢も疲れた様にうな垂れた。
俺はそれを見て、苦笑しながら背負う。
「帰るか」
「そうだな」
「ふにゅ」
遊園地グッズを沢山持って俺達は家に帰宅する。
その帰路の途中で、先程の女達と男達に遭遇した。
どうやら、この遊園地の付近に泊まっている様だが。
不良っぽい感じに、嫌気が指した。
「あるぇ?もしかして矢島?」
ほらな、面倒臭い。
俺は無視して、歩いて行く。
親父が眉を顰めて、立っていた。
「無視すんなよ!俺とお前の仲だろ!?」
リア充に限って必ずそのセリフが出て来るのは何故なのだろうか。
俺は盛大に溜息を吐いて、その男を見る。
「.....何の用だ。鮫島」
「金貸してくれよ。俺ら、ちょっと遊園巡りで忙しくてな」
「.....」
段々イライラしてきた。
夢を側に居る、親父に預けてから。
俺は鮫島に向いた。
「おい.....君達.....」
親父がその声を上げようとした時、先程の女の子が飛び出した。
俺は拳を握りしめていたのだが。
そして俺の前に立ちはだかる女の子。
「止めて!何にも悪くないでしょ!矢島くんは」
「.....ハァ?お前どっちの味方よ?俺が折角モブのお前を拾ってやったのによ」
「.....そんな事言うなら私帰る!矢島くんと!」
「おお、そうすりゃ良いじゃねーか。お前みたいなブッサイクな女は嫌いだわ」
他の連中が笑う。
流石の俺もキレそうになった。
俺はその女の子の前に立ちはだかろうとした、その時。
「何をやっているんだ!君達!」
青い制服を着た、警察官が近づいて来た。
どうも周りの野次馬が通報したらしい。
これに対して、チッと悪態を吐いて。
「運が良かったな矢島。次は金寄越せよ」
「.....」
そして、鮫島達は逃げて行った。
俺達も警察官に事情を説明してから帰路に着いた。
その電車の中にて。
「.....ゴメンね、本当に」
「.....お前が謝るな。お前も大変だったんだな」
旅行鞄を持った、田中と共に帰宅していた。
目の前では親父が夢の世話をしている。
「.....君が転校してからかな。卒業後も鮫島から逃げれなくて.....情けで拾われたんだけど、もう嫌気が指していたの。だから丁度良かった。別れてスッキリしたよ」
「.....そうか」
俺は旅行鞄を持った田中を見つつ息を吐いた。
夢は眠たいのか、グラングランしている。
可愛いな、と思っていると。
『次の駅は〜』
「.....あ、えっと次の駅で降りるね。また話そうね」
「.....ああ」
じゃあね、と去って行く、田中。
俺達の駅と一つ違いなのか、その様に思いながら俺は田中を見つめる。
あの伊達眼鏡の女の子がこうも変わるとはな、世の中分からんもんだ、と。
俺は考えて、夕日が沈みそうな窓の外を見た。
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