第12話 夢の恋の相手

探した結果、七家の予想のマトが当たっていた。

つまり、プイキュアの場所に居たのでは無く。

俺達を探す様にウロウロあちこちを転々と移動していたのだ。

これでは確かに闇雲では見つからないかも知れない。

俺は夢を見ながら、その様に思った。


「良かった!本当に.....良かった!御免なさい.....夢!」


「お母さん!お兄!ななちゃん.....本当に御免なさい!」


夢を抱きしめている、鈴さんはその様に涙を流しながら話した。

いや、本当に俺も心底安心した。

ある意味、冷めたナイフで心がヒュッと切られた感じだったから。

このまま見つからなかったらどうしようかと。

良かった、本当に。


「.....所で、矢島」


「.....何だ?」


俺に耳打ちをする様に。

ヒソヒソ声で話してくる、七家。

俺はそんな七家を目だけ動かして見ると。

七家が複雑な顔で聞いてきた。


「.....夢ちゃん.....その、何かあるのか?」


「.....そうだな。ごめんな、今は.....言えない。.....すまない」


「そうか。だったら大丈夫。今度さ、俺ん家に来てくれよ。チビ共が待っているぜ」


「.....ああ。そうだな」


七家はニヒッと笑みを浮かべる。

俺は。

信用して良いのだろうか、七家を、佐藤を。

裏切ったりしないだろうか。

本当に過去が悲惨すぎたから信用が何なのか分からないから。

俺はその様に考えながら喜びを分かち合っている鈴さんを、夢を見つめた。



「じゃあ、俺はこの辺で」


「七家。今日は本当にすまなかった。有難うな」


「有難うはこっちの台詞だ。本当に楽しかったぞ。有難う」


「七家さん」


七家に買ってもらった大きなおもちゃ袋を抱えて、大喜びの夢の頭を撫でながら七家に声を掛ける、鈴さん。

その小さな鞄から何かを取り出そうとする。

○ーバーリーの袋だ。

大きさ的にはネクタイピンの様で有る様に見える。


「.....夢の事、感謝します。これ御礼なんですが、是非とも受け取って下さい。ささやかなものですが.....」


「.....有難う御座います。でも、そんなに俺に配慮しなくて良いですよ。本当に楽しかったんですから。皆さんのお陰で、です」


七家は頬を掻きながら少しだけ恥じらいつつ。

その眼鏡の爽やか顔を思いっきりに上げた。

それから七家はピースをして膝を折って夢に視線を合わせる。

夢の頭を七家は撫でて、笑んだ。


「本当に有難うね、夢ちゃん。今日はとっても楽しかったから」


「有難う!ごめんね、ななちゃん」


「うんにゃ。全く問題無いよ。.....また遊ぼうな」


そして、膝を曲げるのを止めて今度は俺にその顔を向けてきた。

手を差し出してきた、丁度、握手の格好だ。

俺は直ぐに手を差し出した。


「.....矢島。.....頑張れよ」


「何をだよ。.....お前もな」


固く、絆を確かめる様に。

俺達はギュッと握手して、そして七家は笑顔で帰って行った。

俺達も反対側を歩いて、帰る事にする。

夢の手を握る。

その時に、鈴さんが俺を見て笑んだ。


「本当に良い人が周りに居ますね、心配が薄れました。夢の事を.....今度また感謝の気持ちを伝えておいて下さい。浩介さん」


この心配が薄れたというのは、俺の事だろう。

俺は七家の後ろ姿を見ながら夕日を見つつ笑みを浮かべた。

ニコニコの夢を見て、そして鈴さんに俺は向いて頷く。


「.....分かりました。会社に行ったらまた七家に伝えますね」


「.....はい。じゃ、帰ろうか。夢」


「.....」


「.....!」


横を見ると、父親と母親と幼い娘そんな家族連れが居た。

俺は複雑な思いでそれを見つめる。

夢は俺に向いて、微笑んだ。


「帰ろうね!」


「.....ああ」


「.....」


この先、どんな運命が待ち受けているのだろうか。

夢に隠し切れるだろうか父親が亡くなった事を。

それとも、分からせるべきなのだろうか。

悩んでしまう。

いや、本当に、だ。



夜の事。

ラーメンを食べてから、夢と遊び、俺は自室で明日の事を考えながら通信していた。

七家と連絡先を交換したのだ。

メッセージアプリも。

それで俺は七家と通信を取っていたのだ。


(それで、夢ちゃんは大丈夫か?)


(今の所は。一人で居たのがちょっと怖かったみたいだけどな)


(そうか。ごめんな。もっと早く見つけりゃ良かった)


(.....子供は良く分からんからこれで良かったと思うぞ。七家、お前も良く頑張ったと思う)


お褒めの言葉を頂きましたー!とか顔文字で書いてのんきに送ってくる。

俺はその七家のメッセージを見ながら、微笑んで。

そして、全く、と言った。


(.....お前の元気を少しくれよ。俺に)


(おお、やれるもんならやってるさ。全くな)


(ハハッ)


メッセージを見ながら。

俺は口角を上げる。

案外楽しいな、こういうのも、友達が居なかったから。

いや、信頼が薄かったから。


コンコン


「はい」


「お兄.....起きてる?」


「.....ああ」


夢の様だった。

俺は笑みを浮かべる準備をしながら、入って来た夢を見る。

相変わらずのプイキュアのパジャマに。

.....少し不安げな顔だった。


「お兄.....寝れないの」


「親父と鈴さんと一緒は駄目か?」


「やー。お兄が良い」


やれやれ、仕方が無いな。

俺は思いながら、メッセージを飛ばす。


(すまん。夢と寝る)


(おお、んじゃまたな。アバヨー)


(おう)


そして、俺は夢を見た。

思いっきり夢を抱え上げる。

夢はキャーと軽く悲鳴を上げた。

目を><にして楽しんでいる。


「よし、寝るか!」


「うん!」


電気を消そうとした、時だった。

夢が俺のパジャマを握って。

そして首を振った。


「.....まだ消さないで」


「.....分かった」


俺は夢の横に寝ながら夢の腹を優しく叩く。

そして和かに接した。


「夢。寝たくなったら言ってくれ。電気消すからな」


「.....うん。あの、その.....お兄、相談が有るんだけど.....」


縋る様な目で俺をまんまるな目で見つめてくる夢。

流石にちょっとそんなに見つめられると女の子に見られているので痛いな。

俺は咳払いして話を切り替えようと、夢に聞いた。


「.....何だ?」


「あのね、あのね、とーっても胸がドキドキするの。キューっとする。お兄を見ていると。これって何だと思う?」


夢は胸に手を当てて、俺を見つめてくる。

まさかの言葉に俺は見開いた。

そして考える。

それから答えは敢えて濁した。


「.....それはな、筋肉の伸縮の痛みだと思う.....まぁ.....簡単に言えば、自然の摂理だ。問題無い」


「あ、そうなんだ!お兄が言うなら大丈夫だね」


「.....」


俺を見るの止めてから鼻歌を歌いながら目を閉じる夢。

寝る態勢に入った。

しかし、夢にも有るんだなその感情は。

それは簡単に言えば俺に対する恋心だと思う。

だけど俺は夢を好きになる事は無い。

何故なら俺は。

いや、俺は。


恋をしてはいけないんだ、って。

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