第11話 はぐれた

こんな、いや。

七家のこの様な素顔を初めて見た気がする。

確か、親元から離れての男一人暮らしだとは聞いたのだが。

しかし一人暮らしなのにこんなに子供に慣れているんだな、と。

俺は驚愕気味でもあった。


「.....七家、お前、何でそんなに子供慣れしているんだ?」


「え?ああ。あのな、俺ん家、兄妹のクソチビ共が沢山居るんだよな。それで慣れて居るっつーか。アハハ」


そうなのか。

あまり興味が湧かなかったから聞いて無かった。

俺は目線だけで七家を見つつ、夢を見る。

すっかり、ななちゃんと言って七家と仲良くなっていた。

そんな七家は和かに夢に接してくれる。

鈴さんも不安が解けた様に、側で見守っていた。

何かちょっと嫉妬してしまうなこれ、ハハッ。


「本当に有難う御座います。七家さん。お忙しい中だと思うのに.....」


「ああ、大丈夫ですよ。全く問題無いです。な?矢島」


「.....ああ」


俺は何時もの様に少しだけ笑みながら七家を見ていると。

あっという間に付いた。

何処に着いたって?

それはこの街に有る、大きなデパートである。

結果から言って、何か購入したら夢が一番喜ぶだろうとデパートに決めたのだ。

と思っていると七家がとんでもない事を言い出した。

仁王立ちして、だ。


「よし。奮発して夢ちゃんに俺が何か買ってやるよ!」


「お前.....何を言ってんだ?そこまでお前にしてもらう義理は.....」


「そうですよ!」


「わーい!ななちゃん有難う!」


鈴さんの言う事も、俺の言う事も完全無視の夢だった。

大喜びでななちゃんもとい、七家にしがみ付く。

駄目だ、七家は子供の心を鷲掴みにするのに慣れてやがるなマジで。

俺は頭に手を添えながらも、感謝の意を示した。

七家は俺にウインクする。

そして、俺達はデパートに入って行った。

不安げな感じになっている鈴さんには後で言い聞かせておこう。



「楽しいか?夢」


「うん!滅茶苦茶、楽しい!」


7階、おもちゃ売り場で。

夢が好きなプイキュアの前でおもちゃステッキに目を輝かせている、夢。

そんな夢に俺は複雑な思いも抱きながら見る。

おっと。


「.....っと。ちょっとお手洗いに行ってくるな」


「お、じゃあ、俺と鈴さんで夢ちゃんを見ているからな」


「.....おう、すまんが宜しくな」


とは言え、任せっきりってのもな。

その様に手を上げて俺は急ぎ足でさっさと帰って来ようと。

夢から目を離して、七家と鈴さんに任せて。

トイレに行った。



「ふう.....」


トイレから出て来て小走りでおもちゃ売り場に戻ろうとした、時だ。

俺のスマホに電話が掛かって来た。

どうやら鈴さんからである。

俺は首を傾げて、電話に出る。


「はい。どうしました、鈴さん」


『もしもし!大変なの!』


「えっと、どうしました!?」


『夢が人混みの中に消えちゃって.....!離れちゃったの.....!』


そんな馬鹿な嘘だろ、オイ。

俺は青ざめながら、駆け足で走ってそしておもちゃ売り場に戻る。

目の前に涙目の鈴さんと、店員さんと、七家が居た。

ゼエゼエと息を切らしながら、七家に聞く。


「七家。状況、分かるか!?」


「まぁ分かるが。落ち着けよ矢島。こういう時はまず一旦、落ち着け」


「馬鹿か!俺は直ぐに探しに行くぞ!」


「矢島!」


突然の大声にビクッとした。

俺は突然の事に見開きながら、七家の顔を見る。

七家は真剣な顔付きをして居た。

見た事も無い顔だ。

だが直ぐに七家は柔和になってから、俺を見てきた。


「.....ここは日本だ。外国と違って仮にも安全だと思う。そして、夢ちゃんは偉い子だから、外や他の階には行かないと思う。子供ってのは思考が案外、偏るもんだ。だけど.....ってか、まぁ焦る事は大事だけどな」


「.....」


「.....だけど今は取り敢えず落ち着け。えっとな、店員さんは夢ちゃんをこの階で見たって言った。矢島。先ずお前は子供の預り所に向かえ。俺はこの階を探す」


「.....えっと、わ、分かるんですか?」


鈴さんが涙目で静かに七家に聞いた。

七家がその言葉に、微笑んで話す。

そして顎に手を添えた。


「.....落ち着いて思考を巡らせて下さい。子供ってのは興味がコロコロ変わったりするもんです。自分一人で動いている可能性も有りますが.....ですが、やはり慌てて闇雲にしても見つからない。この階はそれ程、大きく無いです。この階にはおもちゃ売り場、子供広場、洋服売り場、女の子用品売り場.....多分ですが、子供広場、そこは恐らくハズレです。それなら多分もう見つかっていますから。仮にも今、子供売り場にアナウンスを発したが見つかってない.....だから多分.....女の子なら、この階には洋服売り場が有ります、そこなどでしょうね。それもハズレなら.....」


ブツブツと言いつつ、俺のチビ共の経験上ですが。

と言いながら、七家は直ぐにスマホを取り出し、物凄い勢いで検索する。

俺はその七家の行動に驚愕して居るとこっちを見て七家が言った。


「呆然として居たら意味無いぞ矢島?鈴さんにも指示を出すけど、取り敢えずは行ってくれ」


「お、おう!」


余りの七家の豹変ぶりに俺は驚愕しながら直ぐに走った。

取り敢えず、七家の指示に従おう。

その様に思って。

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