第10話 七家との遭遇

衝撃的過ぎた。

何が衝撃的かと言われれば、夢が自分の父親が亡くなっている事を知らない事だ。

いや正確には知っていた、筈だったのだ。

俺と鈴さんは目の前の歩道を踊りながら歩いている様な夢を見つめる。

どうしたら良いのだろうか。

いや、割と真面目に、だ。


「.....まさか.....こんな事になるなんて.....」


鈴さんが不安げに話す。

俺はそんな鈴さんを見ながら、顎に手を添える。

そして、ただひたすらに考えた。

これから先の事を、夢の事などを、だ。


「夢。大丈夫か」


「ん?何が?」


「.....いや、体調とか大丈夫かなって」


「大丈夫だよ?」


それなら良いか一応は。

俺はその様に思いつつ、目の前に視線を向けると。

街で一番有名だというレストランが見えてきた。

俺は横に首を振って、そして夢の手を引いて駆け出す。

夢は少しだけ驚いていたが、俺の手を握り返してくれた。


「行こうか!夢!」


「うん!お兄!」


鈴さんは俺達の様子を見ながら首を振っていた。

俺はその光景を複雑に見て。

そして駆け出す。



滅茶苦茶に美味しかった。

お子様ランチを夢は楽しそうに食べて。

そして俺はハンバーグを、鈴さんはナポリタンを。

楽しいひと時だった。

この後はどうするか、と思ってい歩いていると。

目の前に見知った顔が歩いていて、声を掛けてしまった。


「.....お前、七家?」


「お?矢島.....は!?」


七家は思いっきりに見開く。

俺と夢と鈴さんを見てから七家はショックを受けた目で俺を指差した。

そして涙を流して駆け出して行こうとする。


「お前コラ!何を勘違いしてんだ!」


「うるせぇ!矢島の馬鹿野郎!」


七家は乙女走りで走って行く。

この方達は妻と子じゃねーぞ!家族だ!



「まさか義妹が出来るとはな。お前に」


「.....俺も驚愕なんだけどな」


近くの喫茶店にて。

俺と七家、そして目の前に鈴さんと夢。

そんな感じで会話していた。

眼鏡を外しているから一瞬、分からなかった。


「.....夢ちゃん。初めましてこんにちは。俺は七家だ。七家美琴って言う。まぁ美琴でも何でも呼んでくれ。宜しくな」


「ななちゃんだね!」


「お、おう。な、ななちゃんは初めてだ」


ニコニコしながら、オレンジジュースを飲みつつ手を上げて話す夢。

夢の言葉に驚愕しながら、恥ずかしがる七家。

ほほう、コイツの弱点はここだったか。


「初めまして。私は十島、今は矢島性の矢島鈴です。宜しくお願いします」


「初めまして。七家です。矢島くんとは同期です」


恥ずかしがりながら、話す矢島。

女性に免疫が無いからだろう。

俺は少しだけ苦笑しながら、見つめた。

鈴さんが俺を柔和に見てくる。


「.....同期さん優しい方ですね。少しだけ安心しました。浩介さん」


「いや.....「いやー!コイツとは本当に仲良いんです!」


コラ、俺の言う部分を取るなよ。

話している途中だろ。

俺はその様に思いながら、七家を睨んだ。

そして、紅茶を飲む。


「.....でも、浩介。俺も安心したよ。.....こんなに優しそうな人達が周りに居るなんて.....」


「.....ああ」


「.....俺も佐藤も心配していたんだからな」


「.....」


複雑な思いで俺は和かな七家を見てから口角を上げた。

七家、そこまで思っていたんだな。

俺はその様に思った。


「暗い顔すんなよ。夢ちゃんが泣くぞ。さて.....これからお前と鈴さんと夢ちゃんは何処を回るんだ?」


「お前も付いて来んのかよ.....」


「当たり前だ。夢ちゃんと鈴さんに迷惑が掛かってないか見るのは俺の役目だ。いや、俺と佐藤の役目だからな!」


わはは、と笑う、七家。

ついでに、夢も真似して笑う。

いやいや、訳が分からない事を言うなよと、俺は苦笑しながらその様に言った。

だが、内心では。

僅かながらに嬉しい気持ちがあった。


「もう少し話したら出るか」


「そうだな!」


「そうだなぁ!」


夢ちゃん意気投合だね俺と!

とか言って大爆笑する、七家。

本音を話すべきか、その様に、俺は迷いながら。

目を彷徨わせた。

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