第9話 衝撃

電車に乗ってから俺達は。

夢を引き連れて並木の先の街中に有る、大学病院までやって来た。

そんな俺の横では少しだが、震えていた。

複雑な顔付きでブルブルって感じで。

何をされるか分からないからか、それとも?

でもどっち道にせよ、大丈夫だ。

その様に思いながら俺は夢の手を握る。


「.....夢。大丈夫。痛い事はされないさ」


「.....本当?お兄」


「大丈夫よ夢。今日は.....診察だけよ」


鈴さんも笑む。

そんな、感じの俺達の言葉に安心した様に息を吐いた夢は笑みを浮かべた。

取り敢えず、何とか一安心だな。


「偉いぞ。夢。んじゃ、行こうか」


「病院は嫌だけど、行くね!お兄!」


「偉いわ。夢。さあ、行きましょう」


それから、診察カードを機械に挿入して診察表を受け取ってから。

精神科神経内科に向かった。

途中にコンビニが有ったので、飲み物を購入して、だ。



「.....ふーむ」


目の前に中年の眼鏡の医療局長と呼ばれる、精神科の医者が居る。

そこそこ偉い医者だ。

その精神科の医者は丁度、俺が見てもらっている精神科の医者の知り合いの医療局長だった様で。

俺を見て、優しげに笑んで診察しだした。

心理テストをしたりして。

2時間掛かった。

かなり夢は疲れている様に見える。

可哀想にな。


「.....結論から言って、夢さんですが.....心理性ショックによる、精神の後退現象では無いかと思われますね。やはり。紹介状にも書いて有りましたが、我々もその様に判断します」


「という事は.....つまり.....」


「.....精神年齢は10歳から.....そうですね、夢さんは精神年齢が5〜6歳ぐらいまで後退しているものと推測されます。かなり強く、辛いショックが有ったのでしょう」


俺は見開く。

診察結果は散々なものであった。

鈴さんは覚悟はしていたが、それでもキツかった様で涙を流す。


「ですが」


言葉に俺は顔を上げる。

その中年の医者は真剣な顔付きで俺達を見据えてくる。

そして、眼鏡を掛け直し言葉を発した。


「.....必ずしも治るとは限りません。.....ですが、有る一定までは必ず回復すると思います」


「はい」


「.....はい」


「親御さんも希望を捨てないで下さいね」


医者はその様に話して、笑みを見せた。

夢は何の事か分からないと、不安げな顔付きで俺達を見てくる。

俺はそんな夢に対して頭を撫でた。


「お薬を処方します。飲みやすいお薬ですので.....」


「.....すいません」


「はい」


「夢は学校に行った方が良いですか?」


その言葉に、医者は顎に手を添えて。

首を振って否定した。

そして、夢を見つめる。


「私が言うのも何ですが、今はやめた方が良いと思います。もう少し改善を見てから、判断します」


「.....そうですか」


鈴さんが答える。

そんな中で俺は夢を見てそして複雑な顔付きをした。

夢が学校に行けないのはこの子の為になるのか分からないから、だ。

それとも良いのか。


「一時的なショックで有れば良いのですが.....なにぶん、経過観察をしないと分かりません。次、また来て下さい」


「.....はい」


夢は暇を持て余して、俺にしがみ付いて。

そしてニコニコしていた。

俺はそんな夢を撫でる。



決して、望んでこうなった訳じゃ無い。

だから夢にとっては最悪だと思っているかも知れない。

俺は複雑な面持ちで。

いや、鈴さんもか。

複雑に清算の番号表示まで待っていた。


「お母さん?」


「.....どうしたの?夢」


「.....大丈夫?」


「.....大丈夫よ。ちょっと疲れただけ」


夢はその様に聞いてから、俺を見てきた。

俺は夢に何とか笑みを浮かべて。

そして聞く。


「.....昼飯、何食う?夢」


「エビフライ!」


「.....ハッハッハ!好きなのか?」


「うん!お父さんがよく作ってくれたんだ!」


その言葉が痛いぐらいに突き刺さる。

そして、その次の言葉に。

俺は驚愕するしか無かった。



「お父さん、いつになった帰って来るのかなぁ」



「.....え.....」


まさかの言葉に俺は一瞬だけ鈴さんを見た。

鈴さんも固まっている。

まさか、知らなかったのか!?

俺は慌てて聞く。


「.....お、おい。夢。.....お前のお父さんは.....晴彦さん、俺の親父だろ?」


「違うよ?私のお父さん!遠くに行っちゃったって聞いた。でも帰って来るよね!」


「ゆ.....夢.....」


青ざめる俺。

なんてこった、これは予想だにしてなかった。

すっかり知っている筈だと。

でも、いや、話していたって聞いたぞ、間違い無く。

じゃあ何でこうなっているのだ?


「.....夢。お父さんは死んだのよ.....?貴方も一緒にお葬式に出たじゃ無い」


「.....え?嘘。そんなの知らないよ?」


まさかと思うが、記憶に残って無いのか?

あまりのショックで?

じゃあ、もし死んだって事を知ったらこれはどうなるんだ?


「夢.....」


「お兄?どうしたの?」


「.....いや、何でも無い」


横で嗚咽混じりに泣く、鈴さん。

そんな中で俺は青ざめながら。

夢を見ていた。




















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る