第7話 親父と俺

夢と一緒に風呂に入ってから、鈴さん特製のハンバーグの夕飯を頂いて。

俺はフォークでモンブランケーキを食べる。

親父はプリン。

で、鈴さんはゼリー。

そして夢はショートケーキ。

そんな感じで、だ。

考えを巡らせながら居ると、真横に居る口の周りにショートケーキのホイップをベトベトに付けた夢が言葉を発した。

俺の袖を引っ張りながらニコニコの笑顔で、荒っぽくフォークを置く。


「お兄!何して遊ぶ?」


「こら、夢。ちゃんとフォークを置いて。荒く置かない」


鈴さんが怒る。

その事に夢は目をパチクリして、はーい、と答えた。

俺はそんな鈴さんに手を上げる。

そして夢に話した。


「そうだぞ、ちゃんとしてから、な?」


俺は穏やかに反応しながらティッシュで横に居る、夢の口の周りを拭く。

そしてニコニコの笑顔の夢を抱え上げた。

流石にちょっと10歳だと結構重い、まぁ成長期だな。

そして、床に下ろすと夢は俺にしがみ付いた。

夢は俺の手を引いて早速と、行く。


「お兄!お兄!早く!」


「はいはい。じゃあ何して遊ぶ?」


俺は口角をゆっくり上げた。

そして、俺達はソファーに腰掛ける。

夢はどうやら今日はリカちゃんで遊ぶ様で、俺は人形を持って夢と共に相談して、役柄を決める。

その光景を親父と鈴が笑みを浮かべて見てくる。


「.....晴彦さん。本当に微笑ましいですね」


「.....そうだな。鈴」


その様に話す鈴と親父。

俺はその言葉に耳を傾けつつ、リカちゃんを持ちながら夢に柔和に接する。

その事に、夢はクエスチョンマークを浮かべている。

俺はその夢に目線を合わせて、話した。


「.....夢。お前は家族だ。だからお前を守るからな」


「???」


夢は首を傾げる。

分からないか、でも今はそれで良いんだ。

大丈夫だからな。

思って居ると、鈴さんが俺を心配げに見てきた。


「.....でも、無理はしないで下さいね。浩介さん。.....心配ですから」


「.....無理はしないですよ。大丈夫です。な、夢」


「うん!」


鈴さんが心配する中。

俺にスリスリして来てそれから親父にもスリスリする、夢。

そんな夢を俺は和かに見てから。

珍しく薬が効いてないのか。

少しだけ、こみ上げる胸の奥と俺は戦っていた。


「.....クソッ」


小さく、本当に小さく俺は悪態を吐く。

そのこみ上げるモノとは簡単に言えば俺の裏の顔である。

強迫観念と名付ける事が出来るそれは俺の頭の中に雑念を勝手に集める。

つまり、不安な事しか考えれないのだ。

その為か。


いつかは、其奴らは裏切るぞ


と頭の中でマイナスのイメージに勝手に妄想してしまう。

まぁこれが簡単に言えば俺が何かおかしい一つなのかも知れないが。

もう慣れたってか、疲れた。


「お兄?どうしたの.....?」


「.....あ、ああ。いや.....」


声が聞こえて、俺は顔を上げる。

親父が俺の様子を不安げに見ていた。

そして、夢も、だ。

ハハッ駄目だ。

皆んなを不安にするなんてな。


「.....大丈夫だ。夢」


若干頭に手を当てながら言う。

だが、親父だけは何時迄も俺を不安げに見ていた。

鈴さんも、だ。


「大丈夫ですよ。俺は」


俺はニコッと笑む。

いつか俺は人をある一定度は信じる事が出来るだろうか。

その様に俺は思いながら。

夢と遊んだ。



「.....」


自室にて、机の椅子に座って。

薬を見つめながら、俺は頭に手を添えた。

最近、結構なんか疲れて居る気がする。

本当にいい加減にしろよ俺。

俺は水で薬を飲んでそして眉を顰めた。


「.....今は出てくるなよ」


時刻を見る。

見ると時刻は既に21時30分を回っていた。

するとノックが聞こえた。


コンコン


「.....どうぞ?」


「俺だ」


「.....親父?」


部屋に親父が入って来た。

髪の毛を固めてない、素の姿で。

風呂に入ったのか寝間着姿だ。


「.....無理はしてないか?浩介」


「無理って何だよ?俺は無理なんて.....」


「俺の行動は今でもお前に迷惑を掛けているか」


「.....」


別にもう過ぎた事は過ぎた事だ諦めに近い。

今更、母さんを望んでも。

再婚してしまった訳だから。

そして。


「.....親父。もう何時迄もその話は止めよう。じゃ無いと.....夢が、鈴さんが泣く」


「.....だが俺はお前が心配なんだ」


「.....それは分かるよ。感謝してる。だけど」


「俺はお前の事をお前自身じゃ無いから分かってやれないから.....こうして聞いている。何度も何度も何度も、本当に.....ごめんな」


申し訳無さそうな顔をする親父を見ながら昔を思い出す。

離婚した時の打つかった時を、だ。

思春期にはキツ過ぎたんだろう。


『なんで離婚しやがった!お前マジで死ねよクソが、役立たつ!』


胸ぐらを掴んで、親父を殴って、俺が衝撃を受けてから。

それからか。

親父とあまり話さなくなって。

少しづつ中が取り戻せつつある中で夢と鈴さんがやって来たのは。

暴言を吐いて。

親父には申し訳無かった気がする。

そう、親父は親父なりの考えがあったんだろうに。


「.....今のだけ言うなら俺は夢と鈴さんに出会えて、多分、嬉しかったんだろう。だから親父には感謝だ」


「.....!」


「そう、初めて.....世界は俺が見ている世界じゃ無いって事に.....気が付いたんだ」


「.....」


親父は目を閉じた。

そして開ける。

俺は目を開いた親父を抱き締める。


「今も昔も有難うな、親父」


その一言を、発して。

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