第6話 例えば、この世界が最低最悪でも
さて、ここまで話した中で俺は自閉症スペクトラムだと言う事やとにかく色々な事を明かしたと思う。
分かるかも知れないが、俺ははっきり言って人を信用してない。
と言うか、イジメと離婚で心が折れて出来なくなった。
だけど、夢と鈴さんに出会って久々に心の底からまた立ち上がろう。
そんな気持ちになりつつ有る。
「やっぱり変わったよね。矢島くん」
「.....そうか?」
昼休み、会社屋上にて俺達はベンチに腰掛け、ランチタイムをしていた。
俺、七家、そして佐藤という組み合わせで、だ。
今でも俺はこの人達を信じて良いのだろうか、と悩んでしまう事が有る。
悲しいよな、人間って。
一度、傷を負ったらこのザマだから。
「何か有ったの?もしかして再婚の件?」
「.....そうだな。それも有るかも知れないよ」
「お!?もしかして美人がやって来たのか!?紹介してくれ」
「黙れ独身」
ヒッデェな!と七家は撃沈した。
俺はそんな七家を置いて佐藤に笑む。
「簡単に言えば、大切なモノが出来た、って感じだな」
「そうなんだ。安心したよ。.....何時も.....暗かったから」
「.....矢島は何時もそんな感じで浮いていたからな」
そうかな。
それが俺だと思うんだが、と思う。
心がへし折られたせいかな、よく分からない。
プルルルル
「電話だよ?矢島くん」
「あ、本当だ。すまん。七家、佐藤」
「じゃあ、オメーの卵焼きは俺が貰っとくわ」
「何を言ってんだ、ぶっ殺すぞ」
その様に笑いつつ話しながら歩いて行き、電話に出る。
すると、お兄!
と活気の良い声が聞こえた。
どうやら、夢の様で有る。
「.....どうした?」
『お兄が心配だから.....お義父さんも心配だから.....!』
『すいません、私止めたんですが.....』
二人の声が聞こえる。
俺は口角を上げつつ、非常ドアを抑えながら話をする。
「.....大丈夫だ。夢。直ぐ帰るからな」
『うん!お兄、お義父さん帰ってくるの待ってるからね!』
「鈴さんも」
『はい。ゆっくり帰宅して下さいね。家で待ってます』
帰る家が有るってのはこんなに素晴らしい事なんだな。
俺はその様に思う。
今までは帰りたくなかったからな。
呑んだくれてばっかだった。
ケーキでも買って帰るか。
「.....もう直ぐ仕事なんでまた後でな。夢」
『はーい』
『頑張って下さいね。浩介さん。あ、お弁当、美味しいですか?』
「勿論です」
卵焼きやきんぴらは自信作です、と言っている。
胸を張っている様な姿が見える。
俺は柔和になって答えた。
「.....では、失礼します」
『はい』
『お兄!じゃーね!』
ふうっと息を吐いて、そしてスマホの通話を切った。
間も無く仕事だ。
また頑張らないとって言うか。
たったこれだけでこんなに気力が湧くもんなんだな。
何だか知らないけど。
☆
「お前な。卵焼きは自信作って言ってたぞ。鈴さんが」
「そうなんだ。ご馳走様でした」
「ぶっ殺す!!」
その様な会話をして営業で回って仕事をしていると。
あっという間に帰宅時間になった。
俺達はバンを止めて、会社に戻ってから。
帰宅の準備をする。
「.....ん?」
鞄の中に何か入っている。
俺は静かにそれを取り出してみる。
シ○バニアのお兄さん。
つまり、お兄さんウサギだ。
これを入れたのはアイツ以外考えられない。
「.....アイツめ」
「矢島?なんだそりゃ?」
「.....ったく。いや、何でもねーよ。帰るぞ」
そして俺達は佐藤を引き連れて会社を後にした。
飲み会の誘いが有ったが、断った。
佐藤と七家と別れ。
途中で電車まで駆け足で走る、早く帰りたい。
そんな感じで、だ。
☆
「ハァハァ.....」
運動不足デブがこんなに走ったのは久しぶりの様な気がする。
俺はその様に思いながら、薄暗く明かりが点いている、玄関を開ける。
すると、夢がダダダダダ!!!と走って来た。
「お兄!!!!!」
勢いの有る夢のタックルを俺は受け止める。
後ろにぶっ倒れそうになったが。
それを何とか踏ん張って、俺は受け止めた。
そして夢を思いっきり撫でる。
「夢、ただいま」
何だろう、俺にもし子供が出来たら。
こんな感じなのかな。
そう、思えた。
「あらあら。夢ったら。.....お帰りなさい。浩介さん」
「ただいまです。鈴さん」
「ね!何して遊ぶ!?」
「もう!夢!浩介さんはお疲れなんですから!.....あ、そうだ。お風呂入ります?」
そうですね、と俺は答える、すると。
「あ、じゃあ夢も入る!」
と夢は宣言する様に目をキラキラさせた。
俺はその言葉に、夢の頭をグチャグチャにして言った。
そして目線を合わせる。
「.....んじゃ、一緒に入るか?夢」
「はーい!わーい!」
「全くもう.....ふふ」
すると、背後の玄関が開いて親父が帰って来た。
その手にはケーキボックス。
って、しまった!買い忘れた!
親父にしがみ付く、夢に対して俺は慌てて頭を下げる。
「.....夢。ごめんなお前に早く会いたくてケーキを買い忘れた.....」
「ちょうど良いじゃないか。浩介。お前が買ったら食い切らんだろう」
「だろう!」
親父の真似をして腰に手を当てる、夢。
その光景に俺は口角を上げた。
「.....じゃあ、御夕飯後に食べましょう」
「そうですね」
「わーい!」
ピョンピョン跳ねる夢を見ながら考えを巡らす。
俺の人生はきっとまだ最悪かも知れない。
だけど、これから。
これから少しずつでも変わっていったら。
それで良いんじゃないかって。
思いだした。
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