第3話 鈴の悩み

午後5時21分。つまり、夕方になった。

俺の勤めている会社の書類を見ていると、背後に夢が立っていて指を咥えながら俺を静かに見下ろしていた。

その夢を見てから、俺は書類を放っぽり出す。

もう良いや。

最後まで仕上げてから一切確認して無いけど、まぁ、もう知ったこっちゃ無い。

七家(俺の同期)が何とかしてくれるだろ。

これをやり遂げなかったから、死ぬという訳じゃ無い。


「.....遊ぶか。夢」


「え!?本当に!?わーい!お兄有難う!」


「.....」


夢は大喜びでシ○バニアを持って来る。

そんな夢を見ながら、複雑な思いを抱きつつシル○ニアで遊ぶ。

すると、途中で手招きで鈴さんに呼び出された。

廊下に来て、と言う事らしいが。


「.....はい」


「.....えっと.....浩介くん。何処まで見抜いちゃった?私達の事.....」


「.....見た感じでは夢は幼すぎる。それだけっすかね.....」


「.....やっぱり.....気付いたのね.....あの子のお父さん.....隼人さんが癌で亡くなってから様子がおかしいの。御免なさいね。ご迷惑をお掛けして」


やはりかと思っていると。

鈴さんは震えながら嗚咽を漏らした。

廊下に光がない分、涙を流しているかは分からないが泣いているのだろう。


「.....あの子が可哀想で可哀想で.....仕方が無いの.....本当に仕方が無いの.....!近所の病院にも連れて行ってるけど.....何も変化が無い.....もうどうしたら.....!いじめも受けているって言うし.....もう.....もう.....!」


「.....」


鈴さんは泣き噦る子供の様に涙を流した。

こんな時、母さん、貴方ならどうしただろうか。

目の前の泣いている人を一心不乱に助けただろうか。

そうだよね。

助けないといけないと思う。


「.....俺達に任せて下さい」


「.....え.....」


「親父もきっと協力しますが、俺はそれ以上に協力します。夢を.....守ります」


「.....ご、御免なさいね.....ご迷惑じゃ無いの.....?」


俺は鈴さんに首を振った、そんな事は無い、と。

別に俺は人助けは好きじゃ無い。

だから誰にでも手を差し伸べる様な優しい人間では無い。

だけど、家族なら。

それは話が変わってくるだろう。


「.....親父がコンビニから戻って来たら.....考えましょう」


「.....御免なさい.....御免なさい.....」


「謝る必要は何一つ無いですよ。俺がぜーんぶ好き勝手にやっているだけなんで」


大人が子供を守るのは当然だ。

兄貴が妹を守るのは当然だ。

だから俺は守る。

夢を、だ。

理由は要らない、序列でそうなったんだから。

逆なら俺が夢に守られていただろうから。


「.....それに俺、昔イジメを受けてました。.....理解が出来るんです。夢の事」


「.....え.....」


今は学校に行かせるべきでは無いと考えた。

学校なんて行っても意味無い事もある。

それに、無理に学校に行って、何の得があると言うのだろうか。

学校なんて所詮は体で言うなら脾臓と同じだ。

無いでも生きていけるんだ。


「.....今は小学校に行かせるべきでは無いと思います。俺みたいに体調を崩して長く休むんなら尚更。だから今は自宅で学習して、回復したら行かせれば良いんです」


「.....病院の先生もそんな事は言わなかった.....。ずっと行けって。だから.....混乱していたの.....私」


「.....一個づつ考えて行きましょうよ。病院も.....そんな事を言う病院なら変えたらどうかと思います。病院は調べます。あ、あと、これはあくまで一個人の考えですけどね.....」


涙を流して、頷く鈴さん。

俺は静かにその鈴さんを見守って。

リビングに居る、夢を見た。

夢は不安そうにこっちを見ている。

俺はリビングのドアを開けた。


「夢。大丈夫か」


「.....うん。お兄達は?」


「大丈夫だ。お前の将来の話だよ。学校を暫く休む事になる」


「え.....!?嘘!本当に!?」


頷く、俺。

すると、夢が涙を浮かべて話し出した。

床に涙が落ちる。


「.....子供子供とか言われて.....私.....お友達に無視されて.....悲しかった.....だからキツかった.....!」


「.....ああ」


「私は要らない子だって思ったの.....!でもお兄に出会ってから.....花が咲く様になって.....!嬉しかった.....!今はこの幸せを大切にしたい.....!」


「.....そうだな」


母親に抱き付く、夢。

そして俺に抱き付いて来た。

見上げて、涙を流す。


「.....学校は嫌だ.....行きたく無い.....!」


号泣する、夢。

こんなに無理をしていたのかこの子は。

俺はその様に思いながら。

唇を噛む。


「今は行かなくて良い。学校なんて今のお前の状態に比べたらクソ以下だ。俺も知っているんだ。お前の辛さを。だから俺が.....お前を.....守ってやるからな」


「.....お兄.....有難う.....」


夢は泣き止んだ。

そして、俺に可愛らしい笑顔を見せた。

俺は夢の頭に手を置いて。

そして、背後に居る、涙を拭う鈴さんも誘った。


「.....一緒に遊びませんか」


「.....はい」


そして俺達は親父が帰ってくるまでの間。

シル○ニアで遊んだ。

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