第4話 試行錯誤
こんな状態では新規プレイヤーもやる気を無くすのではないだろうか。調べてみると案の定、古参が残るだけで先細りのタイトルばかりだった。かと言って、他のVRゲームでのアカウント売買などの規約違反は直ぐに見つかってしまう。新規タイトルを狙うのもアリかもしれないが、RMT市場ができるほど人気が出るかどうかは相当なギャンブルだ。
中々、無から有を生むのは難しい。難しいのはここのポイント制度にもある。
ポイントを日本円にする時点で10分の1になる。3万ポイントを日本円にすると3千円でしかない上に、日本円をポイントに替える時には半分税金で持っていかれる鬼畜仕様だ。施設内でも売買などによるポイント授受も20%の税が天引きされる。これは日本円であっても贈与税で同様か。
同じ日本国内なのに、日本円の市場とポイントの市場が断絶しているのだ。
日本円を稼ぐのが正解な気もするが競合相手も多い。ニートでは初期投資など不可能だし、ありきたりな手段ではまともに稼げないだろう。かと言って半端にポイントを稼いだところで外で暮らせる様にはなるわけがない。
思い詰めても直ぐにはいいアイディアも浮かばないので外に出ることにする。
狭いながらも運動場もあるのだが、そっち側は運動系サークルの勧誘が酷かった。若いからと熱心な勧誘に乗ったところで運動が得意ではない自分は、次に勧誘する立場になるだけだろう。こんなところまで来て先輩後輩もないだろうにとは思う。
昼間に外へ出た事を後悔しながら、施設内に1軒しかないコンビニへ向かう。顔を撫でる風が既に初夏の装いだ。まだ湿気を帯びていない風だけは心地よい。
ふと目をやると木陰で本を読んでいる高齢の男性がいた。こんな時代にわざわざ書籍の本を読む人には凄く親近感を感じる。自分も紙の質感だったり、頁を捲る音だったり、電子的なものとはまた違う質感が僕は好きなのだ。沈んでいた気持ちが浮かんでしまう。
「お、お邪魔します! 僕も本が好きなんです!」
何を読んでいるのだろうと気になる気持ちのまま、思わず先走ってしまった。友達でも仲間でもないのに。
「⋯⋯君は?」
本から眠たげな視線を僕に移した高齢男性は、僕の突然な声掛けにも関わらず嫌な顔一つしなかった。やはり読書仲間なのかも知れない。
「僕は橘と言います。僕も本を持ってきているので是非、本の貸し借りなどをしてもらえるとありがたいです!」
それが僕の人生を変える事になった高齢男性との出会いだった。
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