第3話 稼ぐ手段
夕方になり食堂に向かう。
IDフォンのID認識でいくつかのゲートをくぐり辿り着いたそこは、ご丁寧に個別ブースに区切られた空間だった。どうせ群れるとろくな事がないのだろう。
無人の自動注文システムには3種類の定食が表示されている。塩分と脂分控えめのヘルシーなメニューばかりだ。そして、おかわりは別料金と徹底して健康志向だ。育ち盛りには若干過ぎているが物足りなさは否定できない。
しかし今、所持しているポイントは3万ポイントしかないのだ。物足りなさには早めに慣れた方がいいだろう。恐らく必要カロリーは足りているのだ。
VR案内でも何となく理解したが、余剰なカロリー摂取手段や酒タバコといった嗜好品は軒並み千ポイント以上と妙に必要ポイントが高い。
スポットで発生する労働に従事すればポイントも稼げるらしいが、それ以上に食べてポイントを消費してしまいそうだ。そもそもとして稼げるポイントは少ないにしても、ニートを抜けられる可能性が僅かでもあるスポット労働は、意識の高いニートに人気で競争率も高いらしい。
出来上がったトレイを持ち、空きブースを探す。後ろ姿からほとんどの人は同じ無料の施設着を着ており、いよいよ監獄めいてきたなと思ってしまう。
独り言を喋っている人や、何人かでこちらをニヤニヤ眺めている集団を避け食事を終わらせた。私服だと目立つのかも知れない。
「君、来たばかりか?」
隣のブースから声を掛けられる。人の良さそうな中年のおじさんだ。
「はい、今日からです」
「そうかそうか。ポイント稼ぎに興味はないか?」
後半は急に声を潜めて囁いてきた。
「いえ、今のところは」
「興味が出たら相談してくれ。これが私のIDだ」
「はぁ、ありがとうございます」
さり気ない動作で名刺の様なカードを僕のトレイの上に載せ、おじさんは去って行った。
部屋に戻り、先程のおじさんのIDからホームページを見てみると、有料のポイント稼ぎHOWTO記事が並んでいた。成る程、初心者からこうやって稼ぐ人も居るわけだ。
興味が湧いたのでポイント稼ぎ手段を色々検索してみると、スポットの施設内清掃から人気オンラインゲームのリアルマネートレードやイラストを描いて売る、動画サイトで広告収入など、意外と手段がある事に驚く。
僕と同じ様にただ生きているだけでは満足できない人はやっぱりいるのだ。
ニートを脱却する方法は単純明快だ。
金を稼ぎ税金を払い、自分で衣食住を賄えればいい。
仕事がないのならば自分で仕事を作ればいいのだ。資本力に任せてロボットの質と量で勝負する仕事ではない仕事を。
興奮して眠れなくなった僕は明け方まで検索を続けてしまう事になった。
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