第2話 反社ニート

 

 案内された部屋は六畳一間、トイレ付きのユニットバスにキッチンはなし、最低限の家具家電は揃っている。エアコンが付いていて安心した。


 うたわれている健康で文化的な最低限度の生活は送れそうだ。ただし、18歳になったのにニートには選挙権もない。勤労の義務もなくなったが。


 私物は既に届いており、服や食器などを取り出す。唯一と言っていい財産の書籍達は置き場がないのでダンボールのままだ。



 ベッドに寝転がり、IDフォンにVRグラスを無線接続し案内アプリを立ち上げた。


 ナビゲーターの「サユリ」と名乗った黒髪ロングのバーチャル美少女のガイダンスに従って施設の紹介を受ける。


 親からも聞いていたが、ニート施設は完全に男女が別の施設に隔離されている。この施設での性の対象はナビゲーターを名乗った選択可能な彼女らが務める。



 生産年齢人口の8割が生産にも消費にも不要になってしまったため、世界中の政府は人口の抑制に舵を切った。日本は日本らしく緩やかに人口を減らす事にしたのだ。それがこの男女隔離とバーチャルセックスだった。

 今では小学校から男女は隔離され、中学からバーチャルセックス利用が常識だ。この施設の性処理ルームも空いていれば予約して規定利用回数分、利用できるシステムとなっていた。

 人材育成大学に入学できた者だけが男女隔離のくびきから脱し、本物リアルな恋愛や青春を謳歌することが許されているのだ。


 ニート施設入居者の言動は常にカメラとAIに監視され、問題行動を起こせばバーチャルセックスの回数が減らされるだけでニート施設の治安は保たれている。男女共々だ。最も古い商いと言われている春を売る事すらも飴と鞭に使われているのだ。ラノベの聞きかじりだが。


 昔のラノベで見ていたドキドキする恋愛もワクワクする冒険もゲームや物語の中くらいでしか存在しない、キラキラした青春なんてものもここにはないのだ。ただ、平坦に毎日の時間を潰すだけの存在になってしまった事にどこか鬱屈とする。すぐに慣れてしまうのだろうか。慣れてしまうのも忌々しい。


 受けたければVRで様々な教育も受けられる事がまだ幸いだった。ただ、コンテンツのラインナップに、バーチャル結婚やバーチャル子育てといったコンテンツまで揃っている事には、「絶対にニートには子供を作らせない」という怨念めいた執念すら感じる。



 僕は、不要存在と一方的に見なされ、飼い殺しになるのは何故だかとても気に食わなかった。

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