働かないと負けかなと思っている
nov
第1話 独り立ち
市の職員さんに連れられてきたのは、妙に圧迫感のある集合住宅の密集地だった。やけに低い鉛色の空の下で、同じ外観の建物が幾つも窮屈そうにそびえている。
その内の一棟のエレベーターに乗り、職員さんは7階のボタンを押しながら面倒そうに口を開く。
「橘さんの家は114棟の724号室になります。IDでもありますので覚えて下さいね」
そう言いながら、IDフォンを手渡された。ここでは電話もネットも買い物すらもできる端末だ。
「ポイントの支給日は毎月10日です。食堂は朝晩無料ですがポイントの御利用は計画的に。敷地内の施設はIDフォンの案内アプリを参照下さい」
口調は丁寧だが何ら感情の入っていない説明。早く案内を終わらせたいのだろう。
「何か疑問点があればQ&Aアプリでお願いします」
質疑応答すら、したくない雰囲気をひしひしと感じる。
「分かりました」
「⋯⋯それでは良い人生を」
吐き捨てた様な台詞に立ち位置の違いが明確だった。
僕はこの春、高校を卒業してニートになった。
2035年、日本の人口は1億人弱まで減少し、労働人口は140万人まで激減した。昔は少子化だ何だと問題になっていたらしいが労働力はAIやロボットで補われ、一次産業も二次産業も今やほぼ無人だ。三次産業も省人力化が進み、働き口がない人で溢れたらしい。
僕もその一人だ。高校の成績が高度人材育成大学の入学資格に満たなかったのだ。
親もニートである僕には職場を斡旋してくれる人も居るはずもなく、ニートの選択肢しか無かった。
社会のセーフティネットとして作られた、この働かなくても生きていけるニートしかいない街で、僕も只々無為に死ぬまで飼われ続ける事になったのだ。
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