第弍話 『異端の魔女』

ことりと目の前にとろりとした乳白色の液体の入ったカップが置かれる。それはほかほかと温かそうな湯気を出し、子供の胃を刺激した。

恐る恐るカップを手に取りふぅふぅと息を吐きかけてちび…っと口を付けると口の中に柔らかな甘い味わいが広がった。

我知らずほぅ…っと息が漏れ、その様子に『魔女』の彼が笑った。


「そんなに雪花湯が気に入ったか?」

「せっか、ゆ…?」

「そう。お前が今飲んでるそれの名前」

「これ…せっかゆ、って……いうんだ…。おいしい…」

「お気に召して良かったよ、雪花湯は人を選ぶんだ」

「そう、なんだ…」


雪花湯、というものを飲んでからとろ…っとした穏やかな眠気に誘われる。

痛みを伴う恐怖を纏った眠気ではなく、純粋に身体が求める欲望的な眠気が身体を包み込む。

そんな子供の様子に気が付いたのか彼は優しく子供を撫でそっと抱き上げると、隣の部屋寝室に行き、ベッドに静かに子供を寝かせた。

寝るのが怖いのか少しぐずる子供を優しく撫でながら「大丈夫大丈夫」と言葉を繰り返す。

その言葉に落ち着いたのか子供はいつの間にか微かな寝息を立て始めた。

そんな子供を優しく撫でながら呟く。


「こんなに、小さいのに…捨てられたのか……」


その声はどこか悲壮感をまとっていた。

その顔はまるで一人取り残された幼子のような、はたまた事情故に子供を捨てなければならなくなった親のような、なんとも言えない顔をしていた。

そして暫く子供を優しく撫でてふと大事な事を忘れてる事に気がついた。


「名前…聞くの、忘れたな……」


気持ちよさげに眠る子供を眺めながらふ、と口元を緩めた。


「まぁ…贄っつーなら、明日にでも聞けるか、な……」


そう小さく零すと立ち上がり部屋からそっと出た―――。

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