#15 キャンバス

 その光景は、一枚のキャンバスに白い油絵の具で描かれた花のように思えた。

 キャンバスの下側には町がある。町は、いわゆる城下町だ。下側の真ん中くらいには小高い山があり、そこに立派な天守閣をいただく城が建っている。

 城の背後には、大きな湖がある。湖は一杯に満ち満ちた水を陽光に輝かせている。

 その湖の対岸――つまりはお城の建つ山のある陸から湖を挟んだ向かい側にも、町が広がっている。遠目に見、それが町であるということまではわかるが、湖の大きさのために景色が霞んで、そこがどのような町なのかはよく分からない。

 ただ、その町は、青色のキャンバスのなかにあっては、ふたつの「青」を分ける境界線の役割を果たしている。

 青色はふたつ、湖の「青」と、空の「青」だ。


 ふたつの「青」は、それぞれ印象が違う。

 湖はどこか重く、反対に、空はどこか軽い。

 この印象の違いは、ふたつの「青」の色味の違いだけではなく、もっと繊細な何かによるものだとは思うが、その何かは言葉に表し難く、たとえ表せたとしても違った質感のものになってしまう気がするから、やらない。


 再び、キャンバスを見る。

 手前の城下町、遠くまで広がる湖、向こう岸の町、上方を塗りつぶす空。

 空はキャンバスの上側を、その青色でキャンバスのまで覆っている。青色のなかには、白い油絵の具で描かれたような雲がある。

 雲は、夏の広い青空のうえに、歪な丸の形で重ねられたように見える。

 もし、手を伸ばして雲の凹凸の部分を指でつまみ、引っ張れたら、カサブタみたいに剥がれ取れるのではないか。――

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