河野歩美

「次は第一発見者の女子生徒を連れてきてくれ」


 若い警官に連れてこられた女子生徒は、目を真っ赤に腫らしてすぐに倒れるんじゃないかと思うほど危なげに椅子に座った。


「歩美です。河野歩美……」


 女子生徒は弱々しく呟いた。晋三さんの隣に俺たちがいることを気にしていない様子だった。


「河野さん。部活が終わった後、あなたはなにをしていましたか?」

「部活が、終わった後は、すぐに帰りました」


 縮こまったまま下を向いている女子生徒はそれだけ言うとすぐに口を塞いだ。


「それを証明できる人物は?」

「隣の部屋にいる紗佳です。それに、先輩も……」

「先輩とは誰のことですか?」

「……樋口先輩です。彼も、知っています」


 晋三さんが手帳に書き足す。


「そうですか。ではあのメガネケースは本当に見たことないんですね?」

「はい。紗佳のでもありません」

「佐々木さんは日常的に指輪をしていたようですが、そのことについてなにか知っていますか?」

「なにも知りません……」

「では佐々木さんのことを嫌う生徒に心当たりはありますか?」

「それはたくさん知っています。この学校の人も……、この学校じゃない人も……」

「その中で印象に残っている人はいますか?」


 歩美の身体がぴくんと揺れる。


「一人だけいます。名前は知りませんが、とても怖い男の人です……本当に……」


 彼女の弱々しい言葉と態度から、その男がどういう人物なのか想像できる。きっと眉間は常にシワが寄っていて顔の筋肉は相手を威嚇するように強ばっているんだろう。


「その人物はここの学校の生徒ですか?」

「違います」

「ではその男について佐々木さんはなにか言っていましたか?」

「昔友達だったとしか言っていません。私、あまり明菜先輩と話したことないので……」


 ボールペンを持つ晋三さんの手が止まった。もう聞くことはないと言うことなのだろうか。


「歩美さん、部室に入る時に部室の照明は点いていましたか?」


 すると、今までずっと黙っていた玲奈が口を開いた。


「えっ……、いえ……消えていましたけど」


 取り調べを始めてからようやく歩美の顔が動き玲奈の方を見た。涙の跡が彼女の頬にはっきりと浮かび上がっていた。


「それは本当ですか?」

「はい。しっかりと確認しました」

「部室のスイッチって壊れていますよね。なんでもスコアボードを運んでいるときに。そのときに誰が運んでいたか覚えていますか?」

「え、そんな理由で、壊れていたんですか?」

「そのようですね」少し間が空いた「それでは、部室の照明はどうやって切り替えているのです?」

「えっと、照明用のリモコンがあるんです。借りものなので無くさないようにきちんと棚の中に保管しています」向こう、と震える手で指差す。


 玲奈はその答えを聞くと「さすが、ですね……」と大きく目を開いて呟いた。こいつの通う閉成中学も歴史ある場所だ。おそらく全ての照明がスイッチ式なのだろう。俺たちの住むオンボロアパートもそうだ。


「ありがとうございました。歩美さん、この後は一人で帰るのですか? パトカーを出して家まで送ることができますけど」

「それなら紗佳が終わるまで待っています。雨の中ずっと私を待ってくれていたので……」

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