第2話 とき

ひい婆ちゃん(とき)は、自分の娘も娘婿も、結核で明治が終る頃亡くしてしまっていた


娘は結核で奥座敷に寝ていた

暑い夏の夜

開け放した部屋に蚊帳を張った中で

「熱いよ 熱いよ」と娘は夜半からうなされていた

ひい婆ちゃんは、うちわで娘を仰いでやっていた

あおぐと涼しいのか、娘は静になる

ひい婆ちゃんは、夜を徹してあおいでいたのだが

眠気にうとうとと、あおぎながらも船を漕ぎはじめていた

「重いよ 重いよ」との声に目を覚ますと

蚊帳の中、娘の胸の上に二尺程の大きさの人魂が「フワリ フワリ」と浮いていた

うちわであおぐと、人魂は蚊帳を抜け廊下から、庭へ風船の様に

煽られていくのである

あおぐと軽くなるのか、娘は静になる

ひい婆ちゃんは、何度も人魂をあおいで追い出していたのだが

あおぎながら、娘の枕元で寝入ってしまった。

翌朝、娘は胸に焼けた跡の様な、紅いあざを作って、亡くなっていたそうだ

今だと結核性皮膚初感染病巣なのだが。

それから、奥さんを追う様に同じ結核で

息子も亡くしてしまう。

ひい婆ちゃんは、明治初め、十二才で嫁に来てから、お大臣から貧困まで

平柴に登る粘土山に村人が立ててくれた、

藤原三代の碑に刻まれた明治時代を見て来たのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る