11月2日-辻褄を合わせてみたら


 長編を作るには辻褄を合わせる作業が必要だ――

 なんて文章を以前書いたような気がするが、辻褄を合わせようとし過ぎることは決して良い面ばかりとは言えない。


 とある王国が異世界転生者に潰されるまで【原案】

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887410868


 タイトルから察することが出来る通り、異世界転生に喧嘩を売ったような物語(あらすじ形式)である。

 上記の作品は元々「(善し悪しはいいから)テンプレを活用して小説を効率よく書き進めてみよう」なんて発想で書かれたものだった。無駄なところに力を入れずに書くことで質と量を確保しようという作戦である。

 なぜ、その結果がアンチテンプレなのか。始まりは一つの「気がかり」だった。凄まじい魔力で他を圧倒する普通・・の主人公。他のキャラクターが次々と彼を賞賛していく物語。そういう筋書きにする為にどういった経緯にしようか考えていた時、ふと気になったわけである。

「地形すら簡単に変えてしまう程の力を持った人物が、周囲に影響を与えないなんてあり得るか?」

 強すぎる魔力を持つ存在は近付いただけで、周囲にいる生物を恐怖させ、失神させ、場合によっては殺害する。魔力とはそういう類のはずだ。そんな存在をあっさり倒してしまう主人公など、より大きい影響を与えるに決まっている。

 どうするか。実は主人公が無意識に、魔力を体外に放出しないように調整していた。戦闘時に敵が怖気づくのは、その時だけ魔力を出しているから――でどうだろうか。

 いや。仮にそうだったとすると、街中では迂闊に戦闘出来なくなる。過ぎた力のせいで周りの人間に被害が出るから。下手をすれば助けに来なかった時よりも酷くなるだろう。

 そうだ。それも含めて全て治してしまおう。街を全てぶち壊して、包帯まみれの人を多く作った上で、擦り傷一つなく治癒するわけだ。間違いなく人生観が変わるだろうが、これで辻褄は合うのだ。


 しかし、ガッツポーズは出来なかった。上の疑問点を解決するために新たに三つの疑問点が追加されたからだ。

 一つ。魔力という概念を住民は知っているのか。知らなかったとすると、そんな胡散臭いもので治されたとして、本当に副作用はないのかと気が気でないはずだ――今の私みたいに。

 一つ。今後も同じようなことが起こるのか。だとすると、余程の物好きでもなければ、さっさと何処かへ逃げるか、家に引き籠る。

 一つ。この主人公、本当に普通・・で通す気があるのか。


 主人公の知名度は。他国との関係は。治めている国の反応は。対抗勢力は。仲間は――


 欠陥がぼろぼろと出てきた。

 駄目だ、駄目だ、駄目だ!!

 考えきれない。こんなやりたい放題の設定を持ったキャラクターなんて、

 敵役にしか使えないじゃないか。



 こうして、陰鬱なストーリーが出来上がった。

 異世界チート主人公は、恐ろしいまでの理不尽の体現として王国を蹂躙していく。自分らの動向が国の将来を決めてしまうのに、あまりに軽率な行動を取り始める主人公一同。止めることも出来ず、自由人故に話をすることすら出来ない。

 邪魔をすると無慈悲にも実力行使に出る彼らだが、責任は決して負わない。負っているものは、自分達の過去と好きなキャラへの思いくらいだ。


 振り回される現地人達。悲しいのは、そんな圧倒的な力を持つ暴君達に対してでも、国の栄光の為に戦いに向かわなければならない王国の兵だろう。わざわざ死にに行っているようなものだが、それが彼らの役割なのだから仕方がない。

 倒される側にもそれなりの人生があり、積み重ねた思いがある。決して蹂躙され、平伏する為に生きてきた訳ではあるまい。下手をすれば転生者側よりも余程、酸いも甘いも噛み分けた人物である可能性もある。


 彼らの幸せ、彼らの平和は、突然の侵略者によって無慈悲にも破壊されるのであった――


 うん、辻褄合わせというよりかは、これは単なる作者の好みだな。

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