10月27日ー潔く負けを認めてみたら?
昨日の夜を以て、修羅の時間は終わった。
小説のことを考える余地がなかった。人生初の通信対戦。自分の育ててきたキャラ達がいよいよ人様と同じ舞台に立つのだ。経緯は以下にある。
ゲーム初心者、育成の沼にはまる
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887343603
一日を掛けて戦い尽くした結果、分かったことが二つある。
一つは「一つのことに集中し過ぎると、他が疎かになる」ということ。
ゲームについてはまるで未経験だった私が、攻略サイトを見た結果、最適解を求めて暴走を始めた。おかげでステータスは友人とは比べ物にならなくなった。
正直な話、圧勝する気満々でいた。それで私の努力が報われるのならば(友人には悪いが)仕方のないこと。友人も「滅多打ちにされる気しかしない」と半ば諦めていたように見えた。
そして対戦が行われた。結果はどうだったか。
勝率は六割――辛うじて勝ち越しではあるが、私の顔が真っ青になったのは言うまでもない。
改めて友人のゲーム機と交換してもらい、パラメータ画面を確認してみて、青かった顔が更に青くなっていく。ステータス値が私の半分以下だったのである。レベルはむしろ、友人の方が
「何かの間違いではないのか」と真面目に考えたが、二桁に上った試合数がまぐれではないことを実証している。
――パラメータを稼ぐことにこだわり過ぎて、他がおろそかになってるね。
友人は
キャラ毎の役割やスキルの構成が重要視されており、それを考え抜くところに面白みがあるということ。
ステータスを上げる為の構成と、対戦で勝つ為の構成はまるで違うということ。
レベルそのものも、実は大切な役割を果たしていること。
今回は辛うじてステータスの差で力押し出来た訳だが、本来想定されていた遊び方と違うのは言うまでもない。
考える時間は幾らでもあった。育成に費やした時間の十分の一でも対戦に向けていれば、文字通り圧勝出来ていたことだろう。しかし、一度修羅の道に入った手前、既に引き返せなくなってしまった。今まで積み上げてきた苦労や時間が伸し掛かり、他の方法を考えるという選択が採れなかった。完全に「過程そのものが目的」になってしまった。
二つは「私は未だに
敗北が怖い。劣るのが怖い。下がるのが怖い。失うのが怖い。
「人間、大半は上手くはいかない」「一回の成功の裏には百回の失敗がある」だなんて大抵の自己啓発書や名言集には書いてある。その言葉に納得し、受け入れた気になっているけれども、実際には違う。
本当はぶるぶる震えている。初めての対戦で、私は嫌という程思い知らされた。
試合が始まったと同時に、身体が硬直する。今まで積み上げてきた論理が全く頭に浮かばない。長考するがまとまらない、焦りを感じて操作する。理解し尽したはずのキャラが思い通りに動いてくれない。
相手の思惑通りに動かされているような気がする。自分が悪手を打っていたことに気付いたのは、既に三手後のこと。状況は既に変わっているのに、過去の悪手が頭の中を占有し、現在の手まで微妙な一手になる。
競り勝てたはずの勝負を落とす。顔が凍る。目の焦点が合わなくなる。
勝てたはずなのに、勝てたはずなのに、勝てたはずなのに――
そして、気が付いてみると、圧倒的優位で臨んだはずの初陣が黒星となっていた。
友人の感想は「一つの勝負に命かけ過ぎじゃない?」だった。その言葉を聞いた時は、張り倒してやろうかと思ったものだ。
勝負数が少ないと、勝負の重さも軽さも分からない。そんなことだから、たかが遊びに対して重苦しい顔を浮かべることになるし、驚くべき軽率さで致命的なミスを実行してしまうことにもなる。
私はどうやら、何かを誤った時に「成功とは呼べないが、断じて失敗ではない」と思い込む癖がある。口では「失敗した」と言うし、動揺もするのだが、最終的には何故かこう結論付けている――私は負けてなどいないと。
この癖は対戦中に気付いた。一度や二度ならともかく、毎回のようにその結論になるので、自分のプライドの高さに、自分自身が驚くと言う珍事となった。
有り体に言えば「パチンコ中毒者」の思考パターンそのもの。「損切り」というヤツが出来ない――敗北の影が近付いても「失敗ではない、負け犬ではない、まだ取り返せる」と必死に自分に言い聞かせる。気付いてみたら、首から下は底なし沼にどっぷりだ。そんな状態で勝負など出来ない。
勝利(成功)するのも楽ではないが、敗北(失敗)するのも楽ではない。
ともあれ、一日は終わった。
育成RPGに触れ合った時間を思い返す。全然進まなかった序中盤、攻略サイトを見てからの不毛な選別作業、突貫で進めたのでちっとも感動しなかった終盤、そして、キョドりにキョドって勝てる試合を落とし続けた今日――
ちっとも、いい思い出がねえ。
そんな私の気持ちを推し量ってか、友人はあるものを手渡した。
育成RPGの続編だった。
――反省点を踏まえた上で、もう一回対戦をやろう。
この友人は、天使なのか、悪魔なのか。
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