11月10日ー失うものは何もない

 多忙の中、自分だけの時間を持つというのは簡単なことではない。

 人生の使命みたいなものがあり、成就の為にどんな無理でも出来るというのなら話は別だが、さしたる目的がないとなると、どうしても忙しさにかまけてしまう。

 忙しいとなると休みを挟みたくなるし、そもそも何か他のことをやろうとする気もなくなる。

 その中で小説をはじめとした自分の時間を設けるためには、それなりの準備が必要になる。

 帰った後の作業を帰った後で準備するのは甘い。疲労が溜まっている状態で正しい行動を期待するのは厳しいからだ。特に制約がなければ簡単な方で済ませてしまうだろう。

 家に帰ったら「取りかかれ」と言わんばかりに椅子と机を正面に用意する。やるべきことやその手順まで紙にまとめる。なるべく簡単に実行できるように。


 しかし、それでも出来ないものは出来ない。帰宅時間によっては精神的以前に物理的に出来ないこともある。

 話の筋を考え、文章をタイプし、誤字脱字や文法などをチェックする。明日の作業のことで頭が一杯になっている状態では、そのどれもに時間をかけることになる。

 故に文章が三割にも満たないうちに、想定していた就寝時間に達してしまう。

「これから先は明日の作業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。続行しますか?」というポップアップが浮かび上がり、私は大いに悩む。

 今までの経験上、夜更かしによる目立った事件は起こしていないが、運が悪ければ十分起こしうるのだ。あのぼんやりとした夢うつつの状態や頭痛、鼻づまりといった症状を考えると、ここで寝るのが絶対に得策だろう。

 こうして「堅実」なのか「妥協」なのかよく分からない決断により、私は多忙に屈するわけである。

 以前も記載したが、一度ついた休み癖を治すのはかなり難しい。一度目を許すと、二度目のハードルはかなり低くなる。三度やってしまえば、あっという間に元の日常に戻されるだろう。再び湿気たマッチを一万回くらい擦って点火する作業が始まる。


 そんな私の危うい意識を繋ぎ止めたのが「不気味な一文」という作品である。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887394503


 言ってしまえば「不気味だと思った文章」を思い浮かべては上げていくといったもので、一話で完結し、話の長さも五十文字以内という、まさにネタ帳の概要だけを引っこ抜いてぶちこんだような代物だ。オチといった概念がなく、文章の構成を気にする必要もないので、一話作るのに二分とかからない。

 本題であるレポートよりも「不気味な一文」の執筆の方が余程楽しい作業になっていたのは皮肉だが、そのおかげで毎日のアウトプット作業を行うことができた。

 あとはーー当たり前の話ではあるが、一話ごとに細かく区切って一時間ごとに自動投稿という方法を取っていたので、PV数が飛躍的に伸びた。出会いの回数を増やすことは、自分の領域を広げるために重要なことだと痛感した。


「若い内から体を労らないと、年を取ってから後悔する」という話がある。無理の反動が少しずつ溜まっていき、耐久力が低くなってきた時に一気に破裂するそうだ。

 ごもっともな意見だ。だが「無理が出来るのは若い内だけ」という意見も正しいように思える。無理をした方がいいのか、しない方がいいのか。人によって意見が分かれるところだが、少なくとも失うものが何もない脳幹 まこと(27)にとっては、多少の無理はしておく必要があるのかもしれない。


 この件について先生に聞いてみると「自分のために生きるのか、仕事のために生きるのか。何を根底に置きたいのかを真剣に検討しなければなりませんね」と回答があった。

 分からない。今までの自分は与えられたものの中で生きてきた。どんな粗悪品だろうが、ぼったくり価格だろうが関係はなかった。自分の意思で選ぶことを意図的に避けてきた。

 そんなことでは今は凌げても、将来では破綻する未来しか見えない。


「小説を書きたい」というよりかは「設計図を描きたい」のだろうな、俺は。


 まどろみの中でふと考える。

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