10月16日ー深夜テンションの功罪
深夜テンションという言葉がある。
人間の集中力は起床後、時間の経過と共に減少するため、夜遅くというのは1日で最も集中力を欠いた状態ということになる。
集中力を欠くと意識が散漫になる。ぼうっとする。正しい間違いの判断が分からなくなり、結果としてろくでもない行動を平然(むしろ、非常に優れたアイデアと認識して)と実行する状態――つまり、深夜テンションになる。
問題なのは、この状態になった人間は自分の現在の状態にひどく無頓着になることだ。
崖の上を鼻唄交じりに千鳥足。「どうせ落ちても怪我するだけ。踊らにゃ損損」ときたもので、ポジティブというより完全にやけくその域に達している。
その男は一晩中踊りつくし、満ち足りた顔で眠りにつくわけだが、その後のことなど考えていないので、あと数時間後には出勤しなければいけないことや、崖登りに使った命綱を捨ててしまったこと、何より寝転がった瞬間に転落するような位置で床に伏したことにも気付かない。
深夜テンションは恐ろしいものだ。その恐ろしさを知るのは、朝、一番の冴えを見せた状態で目覚め、周りを見渡した時なのだ――
長々と講釈を垂れたが、つまるところ、私と先生は過ちをおかしたのだ。
電車に揺られる中、両目にクマを作った私は反省会――もとい、自分会議を始めた。
題材は「どうしてこんな酷い作品を作ってしまったか」。
――ですから、この小説はひどすぎる。確かに書くのを薦めたのは私ですが、事前の準備時間が足りていなかったことも認めますが、それはそうとしてひどすぎる。
――これが第一話、はじまりの話ですって?
――小説は出だしが肝要、失敗すると半分終わったも同然とされているのに。
そこまで言わなくてもいいじゃないですか。
――いや、私が出版社の人間で、あなたが自信満々に持ち込んできた原稿を読むことになったとして、原稿用紙の一枚目を読んだ時点で『受ける人には受けるかもしれませんねえ』と苦笑しつつ突き返すでしょうね。
とまあ、30分近い移動の間、ポリゴン化した
私は昨日、先生の提案で小説「Round And Round」を書くことになった。小説は書けない、やっても駄目になるという反対意見を封じてまで強行し、見事に撃沈と相成った。
「自分の作品を朝読んで気恥ずかしさを覚える」ようなら要注意だ。そういう場合、大体は作品をコントロール出来ていない証である。
第一話の二文目にして「目覚まし時計を止め、気怠くうめいてから、むくりと起き上がる。キッチンに向かい、鍋に水を入れ、卵を二個加えて――」という、細切れの行為の羅列が延々と続いた時点で、私は自作を閉じた。
自分の作品の種明かしというか、擁護をするというのも見苦しいこと甚だしいが、日常の描写をした後に、ニュースによって非日常に連れ込むという狙いがあったわけである。
その後も同僚との話を通じて、やはり日常であったと安心させた後に、オチを持ってくるという構成により「第一話からなんという波乱の展開なんだ!!」という期待を抱かせ、「こりゃあ、次回が楽しみだ!な、なんだって!?この小説毎日更新されるのか!目が離せないぜ!!」という筋書きを空想していたのだが。
――正直、この話「男は自分の訃報を見た。無論、男は生きている。その後、女から連絡が来た。しかし、女は死んでいる」でおしまいじゃないですか。日常風景要ります?同僚要ります?持って回った言い方要ります?
先生にばっさり斬られた。他ならぬ自分自身に貶される作品というのも罪深い。
しかし、この一話目を通して分かったことがある。脳幹まことという男は、連載小説の書き方を全然知らないということだ。この作品のように実施結果を書くだけならともかく、架空の物語については今まで短編小説でしか書いてこなかった。それも精々2000文字程度しかないボリュームだ。
それ故に短編小説用の文章の書き方――如何にオチをつけるか、如何に起承転結をくっきりさせるかに染まっている。一話完結式の短編小説故に、キャラクターに対する補足など全くない。正直な話、
まあ、書いてしまったものは仕方がない。これからの続きを考えなくては――
――書き直しましょう。
え?
――今ならまだ間に合います。このまま書いても、面白くないことが簡単に予想できます。どうせ、オチも大したことないのでしょう?
いや、ストーリーも何もかも突貫作業だったから、最後のオチも有りがちであることは認めますが。
――『時は20XX年、突如発生した病の影響により、すべての人間が生と死の概念から解き放たれた!!』
――これです。これを第一話の冒頭にしましょう。客引きの効果は十分なはずです。
いや、待ってくださいよ。それじゃあ元々の第一話はどうなるんですか。
――遺産として残しておきましょう。深夜テンションに踊らされたものの遺産として。
え、でも。「Round And Round」、毎日連載するんですよね? となると、今日は二話目を載せないといけないんですが。
――では二話書きましょう。そうすれば結果的には毎日連載が続いたことになります。
いやいや待ってくださいって! この報告だって投稿するんですよ!
追加で小説を一話書くのもギリギリなのに、更にやり直しした上で二話まで書けなんて無理ですよ!
――やりましょう。こうなればとこのとんまで悪酔いするまでです。
かくして私は現在、足つぼ用マットに乗りながら、手帳に「小説を書きたい」と100回書き連ね、その勢いでこの文章もタイプしている。
長時間の足裏圧迫の影響か、足はすっかり冷たくなり、つぼ用の突起が奥まで食い込んでいるのがはっきり自覚できる。
そろそろ日が変わる。二話書き終えた頃には、丑三つ時だろうか。
踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らなにゃ損損――
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