第3話 1-2 クレジットカードでお得

 何故、ジャパンエアを使いたかったかというと、今回、仲村のアドバイスでワンワールド・アライアンスの学生用クレジットカードを作ったからだ。通常、18歳以上でないと発行してくれない「学生用クレジットカード」も高特生には2週間程度で発行してくれる。


◇ ◇ ◇


 特殊高等学校。

 政府が一億総活躍社会の実現を謳って今年開校したばかりの新設校で、全寮制でバイトしながら学校生活ができる。全寮制で三食付きだが、夏休みもなければ、寮でも勉強が義務づけられており、左派系マスコミからは社畜ならぬ学畜だといわれている。

 設置されている政令指定都市は教育特区に指定されており、学校教育法に基づく生徒ではなく学生扱いとなる。

 ここで学ぶものを高特生と呼ぶ。


◇ ◇ ◇


 そして、ワンワールドは日本の大手航空会社であるジャパンエアとアメリカの大手オールアメリカンエアが加入しているマイレージ付きカードなので、日本とボリビアを1回往復すれば、そのマイレージ分だけで福岡と札幌の往復チケットがタダで手に入る。


「年会費無料で、旅行保険も自動でついてくる。こんな素晴らしいサービスを利用しない手は無いわよ。」

 そのうえ今年いっぱいの期間限定だが、紹介者の仲村とそれで加入した広志に、それぞれ千マイルがプレゼントされる。


 広志は、美味すぎる話に、講義で習ったネズミ講という詐欺手口を思いだす。仲村から手渡された申込書を前にして、仲村を信用して良いのかどうか少し不安になる。


 家に申込書を持ち帰った広志は、元春より年収が高い姫子に保証人になってもらう。

 広志は、保証人を快く引き受けてくれた姫子に、その不安を相談してみることにした。


 広志から話を聞いた姫子は、即座に、

「あ〜、その手法は囲い込みっていうのよ。若い人は最初に作成したクレジットカードを長く使う傾向にあるらしいから、手数料収入に頼るクレジットカード会社にとっては、将来的には利益に繋がるのよね。」少し間を置いてから言葉を続ける。


「確かに学生は、お金を持っていないから、特典使われた分だけ損になるけど、高特はマルチリンガルに力を入れているから、将来、海外出張とかで飛行機利用する人が多いって考えたのかも。」


 広志は姫子の説明を自分の経験に当てはめて咀嚼そしゃくしようと試みる。

「近所のたこ焼き屋さんが、たこ焼き一人前買ったら押してくれるスタンプカード、そう、スタンプ10個貯まったら、無料で一人前、というのと同じような理屈なのか。」


「そして、僕が、航空運賃が安いジェットエアよりジャパンエアを利用したいと思った時点で、クレジットカード会社の思惑どおりの思考をしているということか。」と理解した。

『美味しい話には裏がある。でもこんな裏なら納得だ。』


 カードが書留で送られてきて真っ先に仲村に見せたのだが、

「良かったね。旅行前に発行できて。でも、稲田君、私を疑ってなかった。なんか宗教に勧誘する人を見るような目で私を見ていたよ」

 広志の顔は赤くなるのを通り越して青くなった。

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