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 魔術師協会が設置をした結界は強力であり、その範囲内にあるものは何人たりとも魔術を扱うことは出来ない。但し何事にも例外はある。魔術師協会から発行された道具を持つ者にはその結界の効果を段階的に解除することが出来る。勿論それを持つのは誰でもということは無く、相応の実力と実績を残すことが出来た魔術師協会の役職持ち以上の人間だけだ。また、その道具を持つ者は尊敬の意を込めて魔導師と呼ばれることもある。

 少なくとも佐藤がこれから対峙をする魔術師はその結界の効果をかなりの段階まで解除をする道具を持ち、腕に覚えのある魔術師協会直属の人間だろう。佐藤は何度か魔術師協会直属の魔術師とやりあったことがあるが、魔術の腕は何れも恐るべき物だった。黛も学校に派遣をされるレベルの魔術師としては破格の才能を持ち合わせてはいたが、如何せん小回りが利きにくい能力だと見受けられたため、相性の問題もあったのか案外あっさりと片をつけることが出来た。<大造じいさんとガン>は広範囲を一斉に殲滅できる高火力が売りのようであったが、真に注意をすべき魔術師とは呼吸をするかのように何時の間にか幾つもの魔術を使い、それを相手に悟らせぬまま打ち倒す、そんな存在だ。


 佐藤は目の前の建物を見上げていた。

 旧白石区役所は建物が取り壊され、その後駐車場を解体しようとしたところその跡地からは縄文時代のものと思われる石器が見つかったこともあり、再開発は進んでいないはずだった。

 だが、目の前には古めかしい木造立ての校舎がしっかりと建てられており、その奥側には体育館らしい物も確認することが出来ている。カーテンが掛かっていない大きな窓ガラスからは机と椅子が整頓して並んでいるのが見え、白色蛍光灯の明かりが漏れていた。


「また<世界>の魔術使いかな」


 佐藤はそう呟くと無意識のうちに白衣の襟につけているピンバッジを指で撫でていた。

 魔術師協会では師弟制度が敷かれていおり、優秀な生徒は優秀な師に学ぶことが出来る。そしてその授業の内容は師に一任されることになっている。この先で待っているはずの男はもしかすると<世界>の魔術を使うことから黛の師の可能性もあるのかもしれない。勿論、この建物が未知の魔術を使って発生をしているのかもしれないが、その可能性は今は少ないだろうと佐藤は判断をした。

 魔術師達の中には無駄に高いプライドを持ち合わせた者も多い。今回字まで持つに至った自慢の弟子を破った相手は魔術師協会所属の魔術師ではなく、得体の知れない何者か。つまり、何時もであれば自慢の弟子の勝敗を肴に酒を楽しむ程度の出来事ではあるが、こ・れ・はそうはいかない。この世界を支配する全能たる魔術師協会にはふさわしくない事態である。見つけ次第罰を与えよう。そういう話だ。


 無言のまま佐藤は木造校舎の正面玄関の扉を開け中へと入って行く。

 正面玄関には木造の古い靴箱が何個も並べられ、天井には蛍光管が並び辺りを照らしていた。その光に照らされている靴箱には幾つものボロボロになった上靴が収められている。それは佐藤が良く見る北郷学校の生徒用玄関と新しさという点以外では構造的な差異は見られない。そして、佐藤の記憶の底からは一つの光景が思い出されていた。


「これは俺の母校か……?」

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