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 北白石小学校は北白石中学校に隣接する小学校だ。近年新校舎に新築され北郷地区では一番新しい小学校になっている。以前は生徒数1千人を超えるマンモス校と呼ばれた時代もあったが、近年ではその生徒数はほぼ半減の5百人程度だ。札幌市学校図書館地域開放事業に指定もされ、地域の住民にも図書室を開放している。


 北郷小学校からの距離はは大人が徒歩で15分ほど。佐藤は特別教員室を出たその足で北白石小学校の校門前まで歩いて来ていた。彼のワイシャツにスラックスという格好は別段目に付く物ではないが、その上に着ている白衣は珍しいのか時折通行人に目が向くこともあった。だが、隣接している北白石中学校のことを知っているのか直ぐに興味をなくしていた。日頃から白衣を着た教師が学校の周囲を歩いていることもあるのだろう。


 佐藤は左腕の白衣とシャツの袖を捲くると手首に着けている安物のクォーツ時計に視線を落とす。針は20時を少し回ったところを指していた。コンビニエンスストアで雑誌を立ち読みするなどして多少時間つぶしをしてきたが距離がそれ程離れていないこともあり、井上が指定していた時間まではまだ1時間ほど空きがある。既に空は真っ暗くなっているが通学路ということもあり街灯は多めに設置されておりある程度の明るさは保たれている。


 捲くった袖を戻すと佐藤はスラックスのポケットに手を突っ込むと二つ折りの携帯電話を取り出す。この秋の最新モデルだ。ヒンジの部分のボタンを押すとワンタッチで画面が開くのも佐藤は気に入っている。また、最近開始されたパケット通信が定額制になるサービスは基本料金は多少高くつくが、今までのようにパケ死をすることなくウェブサービスを受けられるため、ウェブ閲覧やダウンロードサービスを多用する所謂ヘビーユーザーには今か今かと待ち望まれていた物だ。勿論佐藤はサービス開始と同時に利用を始めている。

 余談ではあるがパケ死とはインターネット回線を利用するたびにカウントされるデータ量、所謂パケット量が多すぎるため、利用料金の下敷きになり請求書を見て青ざめるという物である。余談の余談ではあるが以前の佐藤の携帯電話利用料金請求額は4万円を超えていた。


 その最新の携帯電話のヒンジのボタンを押しワンタッチで開いた画面に満足すると、トップメニューから電話帳を開き目当ての番号を選択すると通話ボタンを押した。やや暫くして通話が繋がる。


「佐藤です。今北白石小学校前まで来ているんですが……、ええ。もうお邪魔をしても良いでしょうか?早く帰って仕事を終わらせないと……。ええ、では宜しくお願い致します」


 佐藤は通話先の相手と何度か言葉を交わすと通話を切った。そして携帯電話を折りたたむとポケットに突っ込む。空になった手でワイシャツの襟につけたピンバッジを軽く握ると軽く息を吐き、その敷地内へと足を踏み入れた。


 その瞬間、ゆらりゆらりと校舎が大きく揺れた。まるで軟体生物の体が波打つようにコンクリートで作られた建物は暫くの間揺れていたが次第に波が引くようにその揺れは収まった。ふと足元に目をやるが地震が起きた風もなく、身体には揺れは感じてはいなかった。車道を挟んで反対側の歩道の女性は何も気付いていないのか右手にコンビニのビニール袋をぶら下げたまま疲れた顔をしてまっすぐに歩いている。

 佐藤は揺れが収まった校舎を一瞥すると赴任直後に渡された書類の一文を思い出す。


―――他の団体との交戦する場合はグラウンドか体育館を使用すること。





 佐藤は敷地内に入った後、生徒玄関の横を抜けグラウンドに着いたがそこに人影は見られなかった。照明器具は明かりを落とされており周囲は薄暗い。体育の時間に引かれたのか50メートルほどの白線が中央に残っている。少し先に見える体育館も明かりはない。ため息をつきながらもグラウンド側からの出入り口の扉を開けようとしてみたが鍵がかかっていて開くことはなかった。

 仕方なく体育館出入り口の横に半分だけ埋められるようにして設置されているタイヤに腰を下ろすと携帯電話をポケットから取り出し画面を開く。時間はデジタル表示で20:18となっていた。


 このまま予定通り21時まで時間を潰さなければならないのか。流石に少し冷えてきたので白衣じゃなく上着を持ってくれば良かったかな。そんなことを佐藤が考え始めたとき小さい足音がグラウンドに聞こえてきた。

 足音の方からは白いセーターとベージュのロングスカートを着た女性が懸命に校舎横からグラウンドに駆けてくるのが見えた。右手にはA4サイズの一冊の本を持っている。

 佐藤は手に持っていた携帯をポケットに戻すとタイヤから腰を上げ女性の下へと歩き出した。

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