目醒め②
「どういうことだ……?」
俺の頭は完全にフリーズしていた。俺の胸から頭まで、まんべんなく銃弾が撃ち込まれているが、どういうわけか全く痛みを感じないのだ。いや、撃たれている感覚がないのだ。銃弾は銃から放たれ、空気を切り裂き、そして俺の肉体を突き抜ける……のではなくすり抜けていく。痛みも、銃弾が貫通していく感覚も全くない。実際には弾は入ってなくて全て空砲なのだろうか……?
恐る恐る後ろを振り向くと銃口の向けられる先の地面や岩が激しい砂煙を立てながら穴を開けられていた。すぐに蜂の巣模様が形成されるので、間違いなく実弾が撃ち込まれている。
たっぷりと五秒間ほど、俺に銃弾を撃ち込み続けたその男は、弾が無くなったのか、構えを解いて、明後日の方向へとまた歩いて行った。全くこちらを振り返ることはなかった。
ようやく体が動いた。といっても体が後ろに倒れてしりもちをついてしまっただけだ。情けない声が出てしまった。全速力で走っていた脈拍は次第に落ち着きを取り戻していくが、冷汗が今になって滝のように吹き出してくる。過ぎ去った脅威と、また来るかもしれないその時への畏怖に立ち上がる気力が起こらない。
目が覚めてから混乱しっぱなしだが、もう一度よく考えて可能性を探る必要がありそうだ。
まず、自分をすり抜けたことから、俺か銃弾かのどちらかがすり抜ける性質を持っているだろうか。そんなゲームや漫画の世界のようなことが実現されている程の世界に住んでいたという感覚は無いが、記憶を失っている以上その可能性もある。
ではそれが実際に再現されているとすると、俺の今着ている服―――ぼろっちい白のTシャツだ―――がずり落ちてはいないことを判断材料の一つとなる。もし俺の体がすり抜ける性質を持っていたら、服は着ていられないはずだし、この地面に立てているかどうかも怪しい。地面もすり抜けてどこかへ落ちて行っている可能性だってある。
ふと体をまさぐってみる。手に触っている感覚はあるし、体の方も触られている感覚はある。そしてすり抜けたりもしないことから、すり抜けていたのは銃弾の方だろうか
だが、銃弾は俺の体をすり抜けたが、その後地面や岩はすり抜けずに穴を穿っていた。銃弾も完全にすり抜ける性質を持っているとはいいがたい。
つまり俺の体が銃弾だけをすり抜けさせるのか、あるいは銃弾が俺の体だけをすり抜けるの二択であると考えられる。
ただ、それがどっちであるかは今はどうでもいい。一回だけで結論づけるのはよくないが、重要なのは銃弾は俺の体に当たらなかったという事実だけだ。
たっぷり数秒間しりもちをついていたが、ようやく体に力が入るようになったようだ。
地面に手をつき立ち上がる。周りの奴らは俺を気に掛ける様子はないし、よく見るとさっきの奴と似たような表情や動き方をしている気がする。
いや、似ているというよりも全く同じ……な気がする。歩き方、走り方、そしてその手の銃の構え方までも。挙句の果てに全く瓜二つの顔を見てしまってからは俺は言葉を失ってしまっていた。
(ますますどういうことだ……)
性別は男女半々程、身長も何故か男女問わず全員大体同じだ。顔はホリの深い外国人顔が多い。服装は様々で、どれも薄汚れているが、それを気にする素振りもなく、黙々と佇んでいる。あるいは、銃を乱射している。
不意に、視界の中央に何かが表れた。半透明のそれはどうやら何かのカウントダウンなのだろうか。最初に現れた時が算用数字の「10」で、一秒ごとにその数字は9、8、と減っていく。
だが、何かが変だ。それはあまりにも突然現れた。周囲を見回しても投影機のようなものは何も見当たらない。それどころかその見回して動いた視界の真ん中に常にそれはあり続けたのだ。
全くどういうことか分からず、もう一度頭を振ってみるがやはりその減り続ける数字は視界の真ん中を占有したままついてくる。顔のすぐ近くで手を振ってみるが数字はそれよりも手前側に存在している。数字が「3」まで差し掛かった。
なんとなくだがこの目がしっかりとその姿を捉えているというよりも、視界に直接灼き付けられているような感じだ。まるで脳が錯覚しているかのような。突然のことが起こりすぎてもう何がなんだか分からない。
銃弾の流れ弾が自分の体を貫いた気がするが、先ほどと同様痛みも感覚すら無かったので、気のせいかも知れない。
カウントダウンが零になる。そして刹那、世界が暗転した。
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