混沌
とても長い間眠っていた気がする。意識が産声を上げる。
まどろみの中で何度も俺は泣いている。こぼれた涙が暗闇に溶けていく。
そして俺は暗闇と一体化していく。俺と闇の境界線は失われ、無の世界を形作る構成要素となる。
世界をたださまよう。何もない世界なのに。ただただ何を為すでもなく流れるままにさまよっている。
永遠のような時間がたった気もするし、たった数秒しかたってない気もする。目のないはずの視界に、何かが映り込む。
これは記憶か。それとも未来か。
様々な写真…だろうか。コマ送りの画像が視界を埋め尽くすのは知らない、かどうかもすら分からない風景や人物だ。それが一フレームごとに切り替わり、とても目で追うことはできない。
何枚も何枚も見ているうちによく出てくる女性がいた。誰だ。わからない。ワカラナイ。
分からないのに何故か懐かしさがこみ上げてくる。存在しない目から枯れたはずの涙が流れる。
暗闇に色がつく。薄暗い青へと一色に染めてゆく。ぼんやりとそれは俺を包み込む。
全てが青に染まると、ある一点に、暗闇が吸い込まれ始めた。渦を巻いて、全てが飲み込まれていく。その中心にも何もない。ただそこに全てが集約していく。
全てが吸い込まれると、今度はその点が膨張し出した。何もない点が膨らんでいく。光が生まれる。豆電球の大きさだったものが、全てを照らす恒星へと変化する。俺はその外だ。あまりものまぶしさだが、何故か義務に駆られたように、俺は存在しない目を開ける。
―――世界が、その顔を覗かせる。
そこで《俺》は、目を覚ました。最初に再生された感覚の嗅覚が、微かな硝煙のにおいを捉えた。
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