旧校舎に秘められた真実

第2話 旧校舎の噂

旧校舎に入ってからどれくらい時間が経過したのだろう。新校舎に戻ると運動部は既に片付けを始めていた。早く帰ろう。この雨の中歩くのは億劫だが、仕方ない。そう思い傘立てに手を伸ばした時、校庭から見慣れたすがたが歩いてきた。部活終わりなのか、タオルを首にかけている。

「…蓮也？」

「ん？あれ、紫乃花じゃん。今下校？遅くないか？」

蓮也は私の幼馴染で、サッカー部に所属している。クラスは違うものの、よく校内ですれ違うので、時間のあるときは話しているのだ。

「蓮也こそ今日はサッカー部無いはずだけど」

「ああ、自主練してた」

こんな大雨の日に自主練に励む人は蓮也以外いない。風邪でも引いたらどうするの、なんて小言を零そうと思ったが、思い返してみると蓮也の行動はさほど珍しいものでは無いし、大雨の中練習したからといって風邪をひくほど柔じゃない。

「なあ、そういえば最近、旧校舎のうわさ広まっているよな」

傘をさす私の隣で、蓮也が呟く。旧校舎の出来事が蘇り、そっと視線を逸らした。帰り際に見た寂しそうな瞳が脳に染み付いたように離れない。初対面で人のテストみるような人だが、真っ直ぐで、好奇心旺盛でどこか儚げ。それは私が抱いた寺里奈緒という人物の第一印象だ。謎多き少女にもかかわらず、親しみやすさを感じた。普段自分から関わろうとしないくせに、また会いたいと柄にないことを思ってしまう。

「どうした？さっきから無言だけど」

「噂、本当だと思う？」

足を止めて、振り返る。蓮也はどう思っているのだろうか。率直な疑問をぶつけると、蓮也は目を見開いた。暫し考えを巡らせ、徐に口を開く。

「俺は信じる。自主練で行くけど、なんかありそうな感じはするし…実際に俺も見たことある。幽霊ではないな。あの姿、見たことあるんだよ」

初耳だった。蓮也には旧校舎での出来事を話してもいいかも知れない。言うつもりはなかったが、蓮也も見ているなら話は別だ。

「私も見た。旧校舎の図書室で」

「え、まじか。一緒に帰ってたのに気づかなかった…お前、相変わらずクールだな」

「気づかれないようしていただけ」

きっぱりと言い放つ。もし私が女子力のある生徒だったら、多少可愛げのある反応が出来るものだが、生憎そのような女子力は持っていない。忙しく駅前を行き交う人々と衝突しないよう、時間を確認する。時刻は7時。ちょうどバスが来ていたので、素早く乗り込む。その十分後、バスを降りて仄暗い住宅街を歩く。降り続いていた雨は、いつの間にか止んでいた。

「旧校舎、明日も行くのか？」

「その予定。約束したから」

バスの中で出来事を語ってから、同じ質問ばかり繰り返してくる。もう何度家の前で不毛なやり取りをしているかわからない。心配性にも程がある。

「…本当に、平気だから」

もし会うことをやめたら二度と寺里さんと会えなくなりそうだった。そうなると、彼女へ疑問を抱いたままおわってしまう。それだけは避けたい。

暫時逡巡した後、蓮也は渋々頷いた。

「わかった。一つききたいんだけど、その少女の名前、知ってるのか？」

「一応ね。寺里奈緒って言ってた」

「っ…！寺、里？」

名前に心当たりがあるのか、蓮也の顔色が変わる。確か、蓮也は噂になる前に一度姿を見たと言っていた気がする。

「心当たりあるの？」

「いや。まあ…聞いたことあると言うか…」

歯切れ悪い口調で言い淀むと、そのまま口を噤んだ。重い沈黙。これ以上踏み込まない方がいい。そう思うと、私は蓮也に一言声をかけ、玄関を開けた。

–––全てが分かった時、傷つくのはお前だぞ。

そう、切羽詰まったように告げる蓮也に気づかずに。

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《作者から》

昨日公開して30分も経たないのに応援されていて…本当嬉しかったです。昨日に続き、今日も更新しました。文化祭は今年で最後だったので、この物語は張り切って書きました。

部員に〇〇←(本名）の小説面白かったって言って貰えたとき、嬉しかった…文芸部員とは今度またカラオケ行きたいです！

次話も、すぐ更新したいと思います。