旧校舎に秘められた真実

第1話 出会い

　始めに。この小説は私が文化祭に書いた文芸部の小説です！『学園生活』テーマなので、それに沿っています！友情メイン、恋愛は申し訳程度に入ってます。短編です！

読了後、心が温かくなるような話にしてます。完結したのをここにのせています！

多分、すぐ更新できるかと…笑

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雨が降っていた。暗雲からしとどに降りしきる雫は容赦なく窓を打ち付け、校庭に水溜りを作っていく。授業の課題が終わり空を眺めていると、どこか気の抜けたチャイムが鳴り響いた。騒がしくなる教室。そんな中、私––––笹川紫乃花（ささがわ しのか）はおもむろに教科書を閉じた。一番後ろの窓側の席。そこから見える旧校舎は天候のせいか、普段より陰鬱としている。生徒数が増えたことから、何十年か前にこの新校舎が建てられたのだ。現在、旧校舎はサッカー部の自主練以外には使われていない。

「ねぇ、旧校舎にまつわる噂って知ってる？」

「知ってるよ。最近、謎の少女の姿が見えるんでしょ？」

　ふと、妙な会話が耳に入った。帰り支度をしている手を止め、女子生徒の会話を傾聴する。彼女たちの会話によると、放課後旧校舎の前を通ると図書室の窓から外を眺めている少女の姿があるらしい。腰まである栗色の髪に、薄紅の肌。華奢な体つきをしているその少女はこの学園の生徒ではないとのこと。他校の生徒だろうか…と疑問を抱きながらカバンを肩にかける。帰りに書店に寄ろうと思っていたが、予定変更だ。噂が本当かどうか確かめに行こう。

　大声で話している生徒を尻目に、昇降口へ向かう。騒がしい場所は苦手だ。イヤホンを耳にはめて傘を差し、そのまま足を踏み出す。台風が接近しているからか、雨脚が激しい。地面のぬかるみに気をつけて木に囲まれた旧校舎の屋根にはいるものの、容赦なく吹く風に煽られた飛沫のせいで、意味を成していなかった。ジャケットについた水を軽く払い、ため息をつく。人気のない薄暗い廊下は冷気が立ち込めているのに、何故か恐怖は感じない。むしろ、緩やかな空気が流れているかのよう。

　導かれるように階段を登ると廊下の一角にある、図書室のドアが開いていた。中を覗いて、思わず息をのむ。

「なにこれ…」

　そこには外観からは想像できない程幻想的な図書室があったのだ。聳える棚に纏わり付いている、鮮やかな蔦。光沢のある机に、高級感漂う椅子。わずかに青みがかったコンクリートに隔たれた空間には、心地よい静寂が満ちている。貴族の書斎を連想させられるその場所は、どこか哀愁を漂わせているように感じた。もしかしたら、謎の少女はただの噂ではないのかもしれない。とりあえず本を見ようと歩き始めたその時。パサリ、と本が落下する音が図書室に響いた。視線の先には、私と同じ歳くらいの––––栗色の髪の––––

　目を疑った。図書室のこともそうだが、噂でしかないと思っていた少女がいるなんて。幻覚……ではなさそうだ。先ほどの雨で濡れた足先から沁み込む寒さが、現実だと教えている。

「ねえ、もしかして貴女、この学園の子！？」

様子を窺う私と反対に、ずかずかとその少女は歩み寄る。

「な、何？確かに私は新校舎の生徒だけど」

「なんでこんな所にいるの？誰？」

それは私が聞きたい。声には出さないがそう思わずにはいられなかった。それにしても、彼女は一体何者なんだろうか。だいたい、何が目的でこの旧校舎に来ているのかさえわからない。

「この場所、いつから知ってるの？」

「……ずっと前からだよ」

私が尋ねると少女は目を伏せ、わずかに顔を曇らせた。だがそれは一瞬で、再び見た時には何事もなかったように本の項をめくっていた。安堵するのと同時に、さっきの表情に違和感を覚える。気を紛らわすため、鞄から本を取り出した時、一枚の紙が滑り落ちた。今日返却されたテストだ。テストはそのまま少女の足下へ落ちる。彼女のことだから勝手に点数を見かねない。

「お？すごい！点数いいんだね」

「ちょ、何人の点数見てるの」

予想的中だ。呆れながらテストを受け取る。

「勉強とか、友達とやったりする？」

「私は…やらない」

そもそも、友達と勉強なんて考えたこともない。周りを見ていても勉強どころか会話が弾んでしまっているのがよく見受けられる。まあ、それは人それぞれだが。

「そっか。…私は、友達とやりたかったな」

語尾を強調させて言う少女。その言葉は何処か切ない。

「紫乃花ちゃん、明日もここに来てくれる？学園生活のこと、教えて」

「なんで私の名前知って…」

「さっきのテストに書いてあったから。ちなみに私の名前は、寺里奈緒。名前だけでも覚えておいて。……そしたら私の事、いつかわかるから」

窓ガラスを打ちつける雨音が一層強くなる。彼女が何を抱えているのか。言葉の裏側に隠された意味は何か。それはわからない。ただ、彼女が明かした名前が、私の中の疑問を解決することは確かなのだろう。名前をメモし、顔を上げると、寺里さんは私に帰宅するよう促した。目にかかった前髪から僅かに見えた彼女の瞳は、心なしか、悄然としていた。