友達

 無事スマホを買い終えた俺たちは、もうデパートに用はないため夕暮れの中帰路についていた。

 

「そういえば、連絡先交換してなかったな」


 俺はこれではわざわざ高い金出してスマホを買った意味がなくなると思い、そう言ってから自身のスマホをポケットから取り出していた。


「ほら、ふるふる」

「ふるふる?」

「なんだ知らないのか? ……ほら少し貸してみろ」

「めんどくさいわね」


 俺は嫌がるみんをスルーしてから、半ば強引に彼女の新品のスマホを取り上げていた。


 買ったばかりで触っていたい気持ちは分かるが、すぐに終わる。


「ほら、俺の連絡先、そっちの表示されただろ?」

「ホントだ」

「それにしても、意外だな」

「何が」

「みんって、スマホの使い方とか知らなかったんだな。あ、別にバカにしてるわけじゃないぞ?」

「分かってる」


 いつものみんなら、ここで怒るはずなんだけどな。


 何か考え込んでいるようだ。


「あたしの父はあんたみたいに脳無し変態バカ野郎じゃないし……ね」


 するといつも浴びせてくるような悪口を。


 けれどもみんは、何だか遠い別のものを眺めているように見え、そこで俺は「どうしたんだ?」とは聞かず、そっと彼女の少し後ろを歩いて行った。



 ◇◆◇



「連絡先欄」

「それがどうかしたのか?」

「あんたが友達だって、笑えるんだけど」

「笑えねえよ。だって俺たちはカップルだもんな」

「あっそ」


 晩飯を食い終え、俺の料理スキルにもそろそろ磨きがかかってきたかと思っていると、みんがスマホを開くなり『友達』の欄を見ては笑っていた。


 別に俺が友達欄にいてもおかしくはないだろ!


「それにしてもまだ一人」

「『友達』の数のことか? それなら、みんは心配ないだろ。人気者だし、すぐに増えるだろうよ」


 まあ、俺の場合、みんと両親を合わせて三人しかいないんだがな!


 何だよ、おかしいか? ……そんな憐れむような目で俺を見ないでくれ!


「そう、ね」

「何だ、何か不安なのか?」

「別にそんなんじゃないけど、あたしはあんただけでいい」

「うん……どゆこと?」

「だーかーらー、あーもうめんどくさっ」


 俺の返しに不満を抱いたのか、みんはうなだれるようにそう言ってから俺から視線を外しては、もう話しかけんなと言わんばかりにスマホゲームを始めていた。


 あんただけでいい。


 その言葉の意味が分からないわけではない。


 ただ、みんが急に今までとは違う真剣な面構えで言ってきたことに、俺は驚きを隠せなかったんだ。


「少し、惜しいことをしたのかもな」


 俺は一階に降りるなり、食器を洗いながらほんの少しだけ後悔をしていた。

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