変貌
「……で、なんであんたが付いて来るわけ?」
「私はあなたに付いて来ているのではなく、そこの男に付いて行ってるだけです」
「何あんた、こいつに惚れたの?」
「は、はぁ? そんなことあるわけないじゃない!」
「あっそ。なら邪魔だから帰って」
「それでも、私には話の続きが……」
「すみませーん。ここにストーカーがー!」
「あ、あなたね! ……分かったわ。また近いうちに会いに行くから」
などと、短い寸劇を終えたところで金髪女は去っていった。
……ところまではいいんだけど、なぜか襟首を掴む力が徐々に強くなっていってるんですけど!?
「あ、あの……首が……」
「あたしはね、今ものすごく機嫌が悪いの。ほら、早く服買いに行くわよ」
どうやら言葉の通り物凄く機嫌が悪い様子の、みん。
なぜ怒っているのか、その理由は分からないけど、まあ俺が向かうのが遅かったからだろうな。
金持ってきてるの俺だけだし。
◇◆◇
「どう?」
「どうって言われても……」
「似合うかどうか聞いてるの。……ほんっと、使えない」
外観がおしゃれな洋服店に到着するなり、みんは服を試着しては俺に似合うかどうかを訊いてきていた。
確かに俺はゲームの世界の少女になら、嫌というほど服を選んであげたり着せ替えをしてあげたりしてきたが……リアルとなれば話は別だ。
俺はただのギャルゲーオタクと化す。
「似合ってるんじゃないか?」
「はぁ……。じゃ、あんたはどれがいいわけ?」
俺が適当な返事をすると、みんは深い溜息をついてそう訊く。
どうやらこの俺に服を選べという事らしい。
仕方がないので、ここは過去にプレイしたギャルゲーのヒロインを思い浮かべることにする。
その中でも、ファッションイベントが発生したものを一作。
あれは確か……二年前にプレイしたヒロインがアイドルのやつだったな……。
「そうだな、俺はこれとか……?」
そこで俺が選んだ一着はこれだ。
「ちょ、あんたそれ」
過去に攻略したギャルゲーヒロインは満面の笑みで喜んでくれたんだ。
俺の選択に間違いはないだろう。
現にみんも、口を開いて驚いてるしな。
きっと俺の卓越したファッションセンスに度肝を抜かしたのだろう。
「ぽ、ポンチョって、それ民族衣装じゃん! あー、お腹痛っ!」
腹を抱えながら、急に笑い始めたんだが……それも俺をバカにするように。
「そ、そこまで笑うことないだろ!」
「だってポンチョは無いでしょー。センス無さ過ぎ~」
「……じゃあいいよ、自分で選んだ方が確実だ。俺は店の外で待ってるから」
「あっそ」
自分で振っといて、いざ俺が選べばやれセンスが無いだのと……くたばれリアル女!
俺はもう服選びなんぞ、可愛い二次元ヒロインの前でしかやらん。そう決めた。
「あいつ、やっぱ性格悪いわ」
◇◆◇
俺はみんの性格の悪さに、若干冷めかけていた。
店を出て、今日はこれでも初デートだと言うのに……なぜかドキドキしない。
俺はリアル女は嫌いだったが、あいつを始めて見た時に確かに感じたんだ。
「ラブコメの波動を」
女々しい? 結構。
ギャルゲーに初めて出会った時、俺はもう一生恋をしないと……そう決意した。
だが、みんと出会ってから全てが狂い始めた。
一日のノルマが達成できなくなったり、ヒロイン攻略時に雑念がよぎって結局失敗したりと、あの頃の俺は絶不調も良いところだった。
その理由は全て、俺があいつに恋をしていたという一つの事柄に収束される。
なら、今はどうだ?
俺がまいた種だが、あいつは俺をパシリのように扱い、加えてわがまま放題。
俺以外の人間の前では良い子ちゃんアピールなんかしたりして、学園アイドルの地位は顕在。
家に帰りたくない理由を訊けど、勝手に怒って後先考えずに家から出ていくと言った始末。
「はっきり言って、もう俺には扱い切れない」
今回、自分で選んだ服をバカにされたのが引き金となっただけで、俺はあいつにしてやれることはしてきたつもりだ。
まあ、たかだが二、三日だが。
何様だよ、と言いたくなる気持ちは分からなくもないが、あいつが来たらもう終わりにしよう。
「待った?」
俺が心中煮え返らない気持ちで悩んでいる時、自身の肩をトントンと叩く声が聞こえた。
振り返ると、あの忌々しいみんだ。
けれども彼女は、彼女自身に最も似合わない服を身に纏って、俺の手を強く引っ張ってきていた。
「お前、その服……」
「何? なんか文句でもあるの?」
「いや、最高にセンスねえなって」
「そ。ありがと」
前言撤回。
ラブコメの神様、俺はお前をひどく憎むよ。
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