第40話

「それで、その条件っていうのは何なんだ?」

「私がかかわっていた段階では神経伝達物質の過剰分泌状態における至近距離からの電磁干渉によってナノマシンを作動させることに成功させていたわ」

「…つまり、クスリ漬けにしたやつを特殊な仮面で操るということか」

 天野が少し考えてそう言った。

「その通りよ、でも信じてほしいのは。あの仮面を作ったのは我々ではない。何者かが我々の開発したナノマシンに不正な介入を行っているの」

 並みいる顔は茜の言葉を信じられないと物語っていた。この場に茜の言葉を証明するものは何もない。

「それで、かかわっていた段階ということは今はかかわっていないんですか?」

「ええ、外されたの。今は兄が中心に動いているわ。信じてもらえないのは分かっている。私たちが行っていたことだって許されることではない。だからこそ、私は今から皆さんに協力します」

「具体的にはどのようなことをしてもらえるのですか?」

 おずおずとそう尋ねたのは今まで無言を貫いていた課長だった。やっと喋れるようになったというほうが適切だろうか。

「私が行うのは情報提供と西園寺綾乃捜査官の奪還支援です」

「奪還ですか?」

 和也が面白がるように尋ねた。

「ええ、綾乃は不当に身柄を拘束されています」

 茜は断言した。

 焦りを見せたのは課長であった。

「待ってください。西園寺係長の拘束は国家公安委員会の了解事項です。我々がそれに意義を唱えることはできません」

「あなただってただの代理人でしょ?そんな組織に義理立てする必要あるの?」

 答えに窮した課長に茜は畳みかけた。

「対外的には私が脅迫したことにしてもいい。それで有罪判決が出たとしても私を逮捕できるのはあなた方だけだから問題はない。代理人契約を破棄されたら私が面倒を見てあげるわ」

 茜の言葉には自分は絶対に逮捕されない、あるいは逮捕されても構わないという決意がみなぎっていた。課員が正規の指揮系統ではないにも関わらず茜の指示で綾乃奪還作戦を行ったのは茜の決意によるところが大きい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公安警察省広域特殊犯罪対策課 槻木翔 @count11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ