第39話

「皆さんに話さなければならないことがあります」

 茜はそう切り出した。

 茜の要請で集められた課員は部屋の外にまであふれている。皆、おそらくは課設立いらい初の来客に興味津々なのであろう。

「私の家、つまり西園寺家は禁断の研究を行ってきました。そして、皆様に早期に行うべきだった情報提供を意図的に行いませんでした」

 室内のざわつきが収まるまで茜は黙っていた。

「我々西園寺家は警察に変わって我が国の秩序を完全に維持する能力の獲得を目指しています」

 ここまで来て、課員の何人かは、茜の目的が爆弾発言を投下し続けて揺さぶることだと気づき始めた。

「それで?それはどんな技術なんですか?」

 天野がいら立ち気味で、それでも好奇心も抑えられない様子で尋ねた。

「国民の思想誘導です」

「そんなことできるんですか?」

「できます。今はまだ完全ではありませんが。条件が整えば可能です」

「その条件は、例えば細工を施した仮面を被るだとか、精神の掌握を下げるとか、何かを飲ませるとか、そんなものですか?」

 いつの間にか静まり返った室内で、茜と天野の問答が響いていた。

「…その通りです。西園寺家の技術は被掌握者の体内に混入させたナノマシンに働きかけることで肉体に精神状態に応じて起きる変異を起こさせることで徐々に精神状態、ひいては思想をコントロールします」

「ナノマシンの工場を取り押さえればいいんじゃないか?」

 若い捜査官があげた声に賛同の声が広がるが、茜の顔はさえなかった。茜の顔が直接見える場所にいる面々はそれだけで状況を察しつつあった。

「もう手遅れです。既にナノマシンの散布は始まっています。おそらくもうほとんど終わっているのではないでしょうか」

 怯えが広がった。当然だろう、自分が今まさにコントロールを受けている可能性を突きつけられたのだから。

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