第38話

「西園寺係長が拘束されたというのは本当ですか?」

 天野と和也は課長に詰め寄っていた。

「いったいどこからそんな情報を得ているんだい?」

 課長は仮面の下では驚きに目を見開いていただろう。課長ですらついさっき国家公安委員会に呼び出されてそのことを知らされたばかりなのである。それも「口外無用」ときつく念を押されたうえで。

「私がお教えしましたの」

 課長が聞きなれない声の出所を見つめると、廊下の死角になっている場所から派手なコートを着込んだ女性が出てきた。マスクをしていない。

 高級な身なりをしていてマスクをしていない人物を前にしたとき、課長のような制度に忠実な人物が行うことを決まっていた。

「これは、お会いできて光栄です。しかし、ここは部外者は立ち入り禁止のはずですが?」

 課長は深く腰を曲げたまま問いただした。迫力も何もありはしない。

「自分が招きました。既に体制は係長の拘束という形で警察の独立を侵しています」

「青木君、それとこれとは別の話だ」

「あの人は、拘束を命じられた犯人にですら拳銃を抜かずに使い勝手の悪い無力化兵器を使用したんですよ?そんなお人よしのアホが肉親相手に拳銃を抜けるはずがありません!この、西園寺茜嬢の話を聞いて納得しました。同時に俺は、係長にそんなことをさせた犯人を許すことはできません」

 和也の迫力に課長は押されていた。天野は腕を組んだままその様子を見つめている。

「私が訊いたのは西園寺君がキャピタルの権利侵害の角で拘束されたというところまでだ。話を聞くに、西園寺君は肉親に危害を加えたのかね?それも拳銃で?」

 そういいながら課長は納得もしていた。なぜ国家公安員会が緘口令を要求してくるのかについてである。たしかに、高い人工知能関連技術を持ち防衛産業、防衛行政への強い影響力を備える有力キャピタル家西園寺家の令状が当主を銃殺しようとしたというのは大スキャンダルである。

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