第33話
「昔、といっても高々数百年の話だ。
当時も平等な社会とはいいがたかったが、今のような不可侵な身分制度は存在しなかったそうだ。
状況が変わったのは人類史上3度目の大恐慌の時だった」
「その話なら知ってるわ。キャピタル各家が協力して日本経済を立て直しなのよね?」
「まあ、その話もまるっきり嘘ってわけではないがな。確かに僕ら梓家も含めてキャピタル各家が積極的な投資を行ったからこそ日本経済は世界に先んじて立ち直ることができた。しかし、その時の投資によって日本の企業群はすべてキャピタル家の支配下にはいり、キャピタルは日本経済を支配した。キャピタルとはそのころの資本家をさす言葉だ。今ではそんな使い方はしないがな」
「確かにそうかもしれないけど。私たちは、日本経済を今でも支え続けているのよ」
綾乃はなんだか自分が糾弾されているような居心地の悪さを感じていた。
「その支配はキャピタル以外のものの生活水準を向上させたか?すべての余剰利益を吸い上げているのは誰だ?」
琢の自己嫌悪を含んだそれは、もはや糾弾であることを隠すことをしなくなっていた。
「キャピタルは利益を吸い上げ、その利益によってより多くの利益が自らのもとに流れ込むようにした。そして、その影響力によって立法府をコントロールし、キャピタル制度という経済格差だけではない明確な身分制度をこの国に確立した。
しかし、綾乃。君がそんなにふさぎ込む必要はない」
いつもとは全く異なる琢の様子に呆然として、琢の糾弾に自身のよって立つところを失いかけていた綾乃にとって、琢の発した赦しを連想させる言葉は溺れているさなかに投げ込まれた浮き輪のように感じた。それが実際には頼りのない藁であろうとも、綾乃には関係のないことであった。
「私は、許されるの?」
「僕も、君たちの捜査に協力するまで知らなかったことなのだが。
キャピタルもまた、搾取されている被害者の一員であったのだ。国全体から富を吸い上げ続ける大きな機構の部品にすぎなかったんだ」
「その、機構が」
「その通り。キャピタル制度を維持することで富を維持し続ける彼らにとって、黒仮面は世論を反キャピタルに結集させる可能性があるリスクそのものだ。早期に刈り取る動機は十分にある。
その機構の名の実質の支配者は」
その名前を聞いた綾乃の頬には、涙が浮かんだ。
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