第28話

「やむを得ず訓練終了前の要員を投入しましたが、練度の予測値を大幅に下回り損害を出してしまいました。少なくとも13人は個人を特定可能な痕跡を残したため今後の作戦投入が困難になりました」

「会計評価部門は頭を抱えているだろうな」

「訓練責任者の責任追及については任せていただければ…」

 十分な盗聴対策を施した小さな応接室で大河内は作戦が不完全な成功を収めたことを知らされたが、責任追及について述べようとした彼個人の汚れ仕事専門の部下に手をかざして言葉を遮った。

「責任追及はせずともよい。私が直接話そう。13人分の損失が出たとはいえ大目標は達したわけだからな」

 部下の眼からは感情を読み取ることが困難であったが、付き合いの長い大河内はそこから不満の色を読み取った。

「不満か?」

「いいえ」

「不満を抱えるのはよくない。この情勢下で規模を縮小しつつあった組織に能力を超える仕事を押し付けたのは私だ。彼もギリギリのラインで判断したのだろう」

「どのような条件だろうと、完全な成果をもたらすのが我々の責任です」

 無感情にそう言った部下を大河内は笑った。

「では、君にはそう期待するとしよう」


「ところで閣下」

「将軍でもないのに閣下は止せ」

「大河内様はあの声明をどう考えますか?」

 大河内は黙って何も掛かっていない壁を見つけた。

 装飾品は盗聴器を設置する場所を増やすことになるためほとんどおいていない。

「失礼いたしました」

 部下は自分が身分を超えた物言いをしていたことに気づき陳謝した。

「それでいい。君は自分の管理する組織を万全にすることに注力したまえ。君の力が必要なときは呼び出す」

 部下は大きな体を窮屈そうに折り曲げて深々と一礼し、退出した。


 実をいうと大河内はこの時、あの不気味な声明について誰でもいいから相談したい気持であった。あの声明文の内容を見る限りあの黒仮面集団の報復対象は大河内達である。唯一の慰めは彼らが大河内らのことに気づいていないかもしれないこと。それすらも希望的観測にすぎないことを大河内は知っていた。


 大河内は室内の唯一の電子機器であり、扉を開けずに外界と連絡を取る唯一の手段である秘匿回線専用電話を手に取った。

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