第27話

 実のところ、広域特殊犯罪対策課は手詰まりになっていた。

 基幹システムに頼りすぎていたのである。

 基幹システムは古今東西の犯罪発生場所発生時間のデータを映像データとして読み込み、特徴量を抽出する多層学習によって未来の犯罪発生を予測している。

 そこに落とし穴があったのである。

 報復の宣言というアッパーは基幹システムにとって評価不能の穴のようなものになってしまっていた。

 イレギュラーな事態が基幹システムの予測をおおよそ見当はずれなものにしてしまったのである。

「これを狙って声明出していたとしたらやばいですね」

 誰ともなくそういった。声からして若い捜査官だが、その場にいた全員の総意でもあった。

「だとしたら我々だけに留めておける問題ではなくなるな。基幹システムの存在は国家機密だ、存在がばれてしまっては予測が成り立たなくなる」

「この前の摘発の時は取り逃がしましたけど予想通りに現れたわけですし、気づいているということはないのではないでしょうか?」

 綾乃も係長としての責任感から眠気より問題解決を優先した。

「むしろあの摘発で気づいた可能性があると思う」

 そう言ったのは和也だった。

「基幹システムは予想していることがばれないように一部の情報しか開示しないようにできています。一度の摘発で予想がばれることはないのではないでしょうか?」

「その機能が本当に機能していればな」

 和也の言葉には棘があった。

「実家の作った機械をかばいたいのは分かるが、その西園寺家謹製基幹システムが動かなくて実際困ってんですよ。係長」

「青木捜査官、今の発言は不適切です」

 綾乃が言い返そうと口を開けたまま固まっている間に課長が和也を窘めていた。

「申し訳ありません、係長。何分夜中に起こされて機嫌が悪いのです」

 和也の謝罪には全く反省の色は見えなかったが、後半の言い訳については綾乃も同感であったので特にそれ以上問い詰めることはしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る