第26話
綾乃は夢を見ていた。夢の中で綾乃は純白の仮面を被っていた。
夢の中の綾乃はそのことに全く違和感を覚えずに、なにも疑わずに銃を撃っていた。
撃てと仮面が命じたので撃つ。仮面が命じるという不可思議な状態にもかかわらず、銃を撃ち続けていた。
綾乃はただ、リボルバー式のはずの銃がいつまで撃ち続けても弾切れを起こさないことだけに疑念を抱いていた。
そして、あらゆる夢がそうであるように、綾乃が見ていた夢も醒めるときが来た。
綾乃を夢の世界から現実に呼び戻したのは呼び出し音を流し続ける通信端末であった。
「もしもし」
寝起きの不満が声に出ていたのであろうか、電話の相手には寝起きであることがばれたようだ。
「ごめんなお嬢ちゃん。寝起きだったか?でも緊急事態なんだ」
相手は名乗らなかったが、綾乃の通信端末の番号を知っていて綾乃のことをお嬢ちゃんなどと呼ぶ人物を綾乃は一人しか知らなかった。
そして部屋に掛けてある時計を一瞥して、天野が声から寝起きであると判断したわけではないと悟った。
「天野さん、その緊急事態はあと4時間ほど待てなかったんですか?」
「どのくらい重要かはお嬢ちゃんが判断してくれ。例の黒仮面が声明を出した」
綾乃はその後、何も考えずに、正しくは何も考えられずに公安警察省に出頭した。
「状況は?」
綾乃が到着したときには既に、捜査員の半数ほどが集まっていた。
「よくわからない、百聞は一見に如かずだ。これを見てくれ」
天野が見せてきたのは動画であった。
黒仮面の人物が映っており、たどたどしい口調で喋っていた。
『先日、我々の同胞であるペルソナたちが殺された。我々は報復を行う』
映像はブラックアウトした。
「これだけですか?」
綾乃は拍子抜けした。
「これだけだ。これが警察を含むいくつかの政府機関に送られた。今のところマスコミに送られた形跡は見られない」
「しかし、なぜこんな時間に送り付けたのでしょうか?」
綾乃は自分がたたき起こされた不平も込めてそう言った。
「目立ちたくはなかったんだろう。もしこの動画が昼間に送られてきたら職員に緘口令をひく間もなく漏洩していただろう」
そう答えたのは課長であった。
「ということは」
「この件に関して一切の口外を禁じる。もっとも君たちは職務で知りえた情報を一切漏洩してはいけないわけでありこの件だけ特別というわけではないが」
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