第24話
「ごめんなさい」
集中検挙を狙った日の夜。課の捜査員が戻ってきていたヘリの格納庫で綾乃は課長に謝罪していた。
「気にするな。検挙できなかったのは西園寺係長だけではない」
実際、他の班もことごとく第3勢力の妨害を受け検挙に失敗していた。
「西園寺係長の班は例の第3勢力の者と思われる者を確保したのだからいいほうだ」
「しかし、その容疑者も口内に毒のカプセルを仕込んでいたようで。申し訳ございません」
「死体からわかることもある。管理職が落ち込んでいると士気に関わる。落ち込むならプライベートスペースにしなさい」
課長の言うことももっともであった。綾乃は管理職であり、部下に規範を見せる立場なのである。
「わかりました」
綾乃は素直にうなずいた。
「課長、各地の警察から集めた第3勢力襲撃時の現場ログの集約作業完了しました」
課長は報告に頷き、綾乃にもついてくるように言って格納庫から出て行った。
綾乃もあわてて追いかける。
「集約作業をしていて気づいたことはあったかね?」
歩きながら課長は報告に来ていた下級の捜査官に問いかけた。
「あくまで印象ですが、狙撃はともかくカメラに写っていた実行犯は稚拙でした」
「プロの殺し屋ではないと?」
「いえ、そこまでは判断できませんが、自分ならもっと目立たずに殺せます」
思い出したように付け加えられた捜査官のアピールに苦笑いしながら、「あとは私たちが判断するよ」と課長は言った。
綾乃が課長とともにやってきたのは映像を複数の大型モニターに映し出せる部屋だった。薄暗く、音の反響を押さえるように作られた壁は閉塞感を感じさせる。当然名がら窓はない。
「では、流そう」
最初の10分間は誰も口を利かずに映像に見入った。
綾乃はメモを取りながら見ていた。そのメモには「返り血」「緩慢」「顔が映っている」など書かれており、その横には正の字で回数が記録されていた。
10分が経ち、課長が映像の再生を止めた。
「西園寺係長、どう思う?」
「やはりプロの犯行には思えません。返り血を残していたり、顔が映っていたり、ターゲットに反撃されていた襲撃犯もいました」
綾乃の意見を聞いて、課長は少し考えこんでいた。
「犯行が稚拙という意見には同意する。しかしプロではないというのは結論を焦りすぎなのではないかと思う」
「そうですか?」
「顔が映ってはいたが、該当するデータが警察のデータベースに載っていない」
「それは、前科がないからじゃ…、なるほど」
綾乃は途中で自らの誤解に気づいた。
現代の警察はすべての住民に定期的に生体データを登録することを義務付けている。
通常は、学校や企業の健康診断時にデータを取るので意識することはないが、もし生体データを一定期間提出しなければ刑事罰の対象になる犯罪である。
「裏社会の人間ってことですね」
「毒入りカプセルの件もある。おそらくまだ訓練中の使い捨て要員を動員したのだろう。詳しくは例の死体からのデータが上がってくるのを待つしかないな」
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