第21話

「基幹システムが示した次の犯罪発生予想位置はこの228ヵ所だ。今回は数が多いため、捜査員が二人一組で行動してもらう」

 課長の言葉に、朝霞と綾乃は頷いた。

「数がやたらと多いですね」

「情報が少ないので大まかな割り出ししかできなかったようだ」

「今作戦における武器使用は?」

「今作戦に当たって武器使用許可レベルは2、非致死性のすべての対人兵器の使用を認める」

 

 課長との連絡事項を携えて係に戻った両係長は直ちに行動に移った。

 巡回セールスマン問題の応用による最適化がなされた展開ルートを各員に割り振る。

 ツーマンセルは事前に決まっていたので迷わなかった。

 綾乃は和也とのペアであった。

「よろしくお願いします」

「係長は実戦はほぼ初めてだよね」

 和也は控えめな笑顔で問いかける。とはいっても綾乃の知る限り和也は常にこの、控えめな笑顔を絶やさないのである意味では仮面をかぶっているほかの同僚より表情が読めない。

「ええ、まあ」

「じゃあ、足を引っ張らないように戦闘になったら離れててね」

 和也はそのまま格納庫に向かおうとした。

「待ってください。私は今後のために経験を積む必要があります。今この瞬間の利害を優先して将来的な利益を棄てるのは不合理な考え方です」

 振り返った和也の眼は笑っていなかった。嗤っていた。

「いいか、俺たちが失敗して支払う対価は俺たち自身の命だ。それでもいいなら前に出ろ」

 綾乃が固まっていると、いつの間にかいつもの控えめな笑顔に戻った和也が続けた。

「古典ゲームでもよく言うよね。『いのちだいじに』って」

「あ、はい」

「それじゃあ出撃しようか」

 ほかの係員とともに格納庫に入り、前回の出撃とは別の小型輸送ヘリへの武器積み込み作業を指揮しながら、綾乃は羞恥で真っ赤になっていた。

 和也が綾乃に対して行ったことは本来ならば指揮官である綾乃が部下に行うべきことであった。

「恥ずかしい」

「何か言いましたか?係長?」

 たまたま近くにいた係員が声をかけてくる。

「顔が赤いじゃないですか!メディカルチェックの申請をしておきましょうか?」

「いえ、大丈夫。こういう体質なの」

 綾乃が作った笑顔は相当無理があるものであったが、係員が納得して去っていった。あるいは係長の隊長を気にするより出撃準備のほうが優先度が高いと判断したのかもしれない。

 こういう時には仮面をつけるのも悪くないと思う綾乃であった。

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